東京電力柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」したが、安全対策を施している最中で、再稼働していない。の再稼働東京電力福島第1原発事故を踏まえ、国は原発の新規制基準をつくり、原子力規制委員会が原発の重大事故対策などを審査する。基準に適合していれば合格証に当たる審査書を決定し、再稼働の条件が整う。法律上の根拠はないが、地元の自治体の同意も再稼働に必要とされる。新潟県、柏崎市、刈羽村は県と立地2市村が「同意」する地元の範囲だとしている。問題を巡り、新潟日報社が全新潟県議会議員を対象に行ったアンケートでは、再稼働に慎重な意見が目立った。県議会の考えは花角英世知事の判断に影響を与える可能性がある。アンケート結果を詳報する。(3回続きの1)
「雪国のことを理解していない」-。3月中旬、原子力防災を所管する内閣府の幹部を招いた政権与党・自民党県議団の勉強会では、ベテランを中心に避難の課題を指摘する声が相次いだ。県議会最大会派の自民では今、能登半島地震を受けて事故時に避難できるのかとの懸念が渦巻いている。
自民32人のうち再稼働を「認めない」としたのは、4割に近い12人。共通するのは避難の課題が解決していないとの意見だ。元県連幹事長の小野峯生氏(村上市・岩船)は2023年夏に県などが国に要望した避難道路の整備を挙げ、「なんら具体的な回答がない。そういう状況では反対せざるを得ない」と語る。

内閣府の幹部から原発事故時の避難計画などについて説明を受ける自民党の県議ら=3月、県議会
国の原子力災害対策指針自治体や国の機関、電力会社などの原子力事業者などが、原子力災害対策を円滑に進めるために定められた指針。原発などの施設周辺に住む住民が、緊急時に放射線による「重篤な確定的影響」を回避または最小化することを大きな目的とする。指針の目的には「住民の視点」に立った防災計画を策定することなどが書かれている。では、事故時に原発から半径5キロ圏(PAZ)国の原子力災害対策指針で定められ、重大事故時は放射性物質が放出される前の段階から避難を始めるとされる区域。対象区域は、施設からおおむね半径5キロ。柏崎刈羽原発の場合、柏崎市の高浜、荒浜、松波、南部、二田、中通、西中通の7地区と、刈羽村の全域が当たる。の住民は即時避難する一方、半径5〜30キロ圏(UPZ)原発などで事故が発生した場合に防護措置を行う区域の一つ。原発からおおむね5~30キロ圏は緊急防護措置を準備する区域=Urgent Protective action planning Zone=とされる。放射性物質が放出される前に屋内退避を始め、線量が一定程度まで高くなったら避難などをする区域。5キロ圏はPAZ=予防的防護措置を準備する区域=という。柏崎刈羽原発の場合、柏崎市の一部(即時避難区域を除く全ての地区)、長岡市の大半、小千谷市の全域、十日町市の一部、見附市の全域、燕市の一部、上越市の一部、出雲崎町の全域が当たる。の住民は放射線被ばくを避けるため屋内退避が原則だ。しかし、能登半島地震では家屋の倒壊や道路の寸断で屋内退避が難しいことが明らかになり、見直しが進む。
元県連幹事長の柄沢正三氏(長岡市・三島)は「国が原発事故時の避難の指針を見直そうとしており、県も避難計画の再構築をしていない。現時点で再稼働はあり得ない」と強調。屋内退避の実効性を疑問視する意見も多くあった。
一方、自民で最も多かったのは「判断できない」の15人。柏崎刈羽原発の安全対策を確認する県技術委員会新潟県が柏崎刈羽原発の安全確認を行うに当たり、専門家から技術的な指導や助言を得るために設置した委員会。原子炉物理や地震工学、品質管理の専門家ら11人で構成されている。正式名称は「新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」。東京電力が柏崎刈羽原発や福島第1原発などで、重要な設備にひび割れがあるなどのトラブルを隠ぺいした問題を受け、2002年に設置された。での議論が続いていることや、原子力規制委員会原発推進を担う経済産業省から安全規制の役割を分離させ、原子力規制に関する業務を一元化した組織。東京電力福島第1原発事故を受けて発足した。国家行政組織法3条に基づき、人事や予算を独自に執行できて独立性が高い「三条委員会」として環境省の外局に位置付けられる。衆参両院の同意を得て首相が任命する委員長と委員4人で構成する。が屋内退避の運用見直しを行っていることから、「議論を見極める必要がある」(岩村良一県連幹事長=新発田市・北蒲=)との意見が大半だった。

無所属の連合推薦議員でつくる真政にいがた(3人)と公明党(2人)もそろって「判断できない」を選んだ。ただ、東北電力労組出身の渡辺和光氏(新潟市東区)は規制委や県が避難の課題を確認しているとし、「確認が終われば再稼働を認める」と容認姿勢をにじませる。
公明県本部代表の市村浩二氏(新潟市中央区)は避難道路の整備計画が出ていないことなどを理由に「判断材料がそろっていない」と述べるにとどめた。
再稼働を「認める」とした3人はいずれも自民だった。地元の柏崎市・刈羽選出の与口善之氏は、規制委が2023年末に事実上の運転禁止命令原子力規制委員会が、東京電力に対して出した「是正措置命令」。柏崎刈羽原発でテロ対策の重大な不備が相次いだことを受け、原子炉へ燃料を入れることや、核燃料を移動させることを禁じた。原子炉に核燃料が入れられなければ原発を動かすことができないため、実質的には運転を禁止したことになる。命令は2023年12月に解除された。を解除したことを受け「再稼働を認めない合理的理由はない」とした。
国政野党系の第2会派「未来にいがた」(9人)と反原発を掲げるリベラル新潟(6人)は全員が「認めない」を選んだ。
「原発は人がコントロールできない」(牧田正樹氏=上越市=)「放射性物質に対する不安を消し去れない」(重川隆広氏=新潟市西蒲区=)と、再稼働反対を訴える意見が多く聞かれた。一方で、原発再稼働を掲げる国民民主党県連代表の上杉知之氏(新潟市中央区)は「将来的には認めたいが、課題への国の対応がなく県民の理解が進んでいない」と答え、野党内でも濃淡が表れた。
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連載[問う柏崎刈羽原発・新潟県議会議員アンケート]<中>東京電力への信頼度「全くない」が最多 「県民に信を問う」手法は?