福島第1原発事故から5年の節目で訓示する東電の広瀬直己社長(中央)=2016年3月11日、同原発緊急時対策室(代表撮影)
「第4部 再稼働 何のために」紹介

東京電力柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。の再稼働は何のためなのか。連載企画「原発は必要か」の第4部では、再稼働問題をめぐる東電の経営事情や、原発が抱える課題を探る。(文中敬称略、本編全8回)

<1>首都圏向けの供給過剰に

電力小売り全面自由化に伴い、家庭向けに参入した「新電力」と、長年市場を支配してきた東京電力との攻防が首都圏で展開されている。

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<2>自由競争下で値下げ実現

日本経済を支えるために、柏崎刈羽原発の再稼働が必要だ-。地元経済界ではそんな声がよく聞かれる。

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<3>東京電力の原子力コスト「9・8円」

電気は足りている。それでも原発の再稼働が望まれるのは、発電コストが安いとされているからだ。

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<深掘り>発電コスト試算、45年のデータ精査

新潟日報社が東京電力の原発の発電コストを試算すると、1キロワット時当たり「9・8円」で、火力発電よりも高かった。

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<4>発電ゼロでも巨額の経費

原発は事故のリスクを加味すれば、決して発電コストが安いものとは言えない。東京電力社長は「経営安定のために柏崎刈羽原発の再稼働が必要」と強調する。

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<5>回収できなければ投資は「不良債権」に

柏崎刈羽原発の敷地内はこの5年で大きく変わった。海沿いには城壁のような防潮堤がそそり立つ。構内道路沿いの緑地帯は、火災の延焼を防ぐためモルタルで固められた。

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<6>全基廃炉でも最小で赤字2911億円

「柏崎刈羽原発の稼働は私たちの経営にとって非常に重要だ。動かす必要がないと思っている経営者はいない」。

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<7>原発事故再発なら賠償は困難

東京電力が福島第1原発事故で被災者に支払った賠償額は6兆円を超えた。しかし、民間保険の上限は1原発当たり1200億円にとどまる。

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<8>コスト削減、問われる安全との両立

電力の小売り全面自由化で参入した新規小売り事業者を迎え撃つ東京電力。価格競争で優位に立つために取り組む経営課題がコストの削減だ。

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〔とじる〕

[原発は必要か]のラインナップ

第1部 100社調査

柏崎刈羽原発が地域経済に与えた影響を調べるため、地元企業100社を調査した。浮かび上がったのは、原発と地元企業の関係の薄さだった。

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第2部 敷かれたレール

福島第1原発事故の影響が続く中、東京電力が柏崎刈羽原発を再び動かすレールが着々と敷かれる。誰が、なぜ原発を動かそうとしているのか-。

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第3部 検証 経済神話

再稼働を巡る議論で「原発は地域経済に貢献する」との主張があるが、それは根拠の乏しい「神話」ではないか。統計を基に虚実を検証する。

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第4部 再稼働 何のために

柏崎刈羽原発の再稼働は何のためなのか。再稼働問題を巡る東京電力の経営事情や、原発が抱える課題を探る。

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第5部 依存せぬ道は

再生可能エネルギーの成長が加速する世界的潮流に逆行するかのように、日本で原子力を再評価する動きが目立つ。エネルギー事情の実相を追う。

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〔とじる〕

【2016/4/28】

 「柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。の稼働は私たちの経営にとって非常に重要だ。動かす必要がないと思っている経営者はいない」

 東京電力常務で新潟本社代表の木村公一(56)は4月19日、新潟日報社の取材に対し、経営陣の一人としての思いを語った。

 社長の広瀬直己(63)も折に触れて柏崎刈羽の再稼働が経営に果たす役割に言及してきた。東電にとって再稼働は既定路線に思える。

 では仮に、東電の原発を全て廃炉にした場合、経営にどれほど影響するのか-。

 興味深い数字がある。

 「最小の影響 2911億円赤字」

 「最大の影響 3兆1274億円赤字」

 いずれも立命館大教授の金森絵里(42)=会計学=、大島堅一(49)=環境経済学=による試算だ。電力会社の有価証券報告書などを基に、各社が原子力事業から即時撤退した場合の会計上の影響を算出した。

 東電の場合、最小と最大との差が2兆8363億円もある。「最小」の場合は、廃炉で必要なくなった核燃料を転売したり、使用済み核燃料原発で一度使用した燃料。原発の燃料は原料であるウラン鉱石を加工し、焼き固めた「ペレット」と呼ばれるものの集合体で、使用後も見た目や形は使用前と変わらない。使用済み核燃料の中にはウランやプルトニウムなどのまだ燃料として使える資源が95~97%残っているとされる。再処理使用済み核燃料から再利用が可能なプルトニウムとウランを取り出す一連の作業。取り出した後はウラン燃料やMOX(混合酸化物)燃料の原料として使えるようにする。青森県六ケ所村で再処理工場が建設中だが、完成目標は何度も延期されている。のための引当金を取り崩したりすると仮定したため、損失額が小さくなった。

 「最小」なら債務超過にも陥らないという。どちらがより現実的なのか。

 金森は「『最小の影響』の方だ」と強調する。

 理由の一つとして、政府が2015年に「廃炉を円滑に進める」との目的で行った会計制度の見直しを挙げる。

福島第1原発事故から5年の節目で訓示する東電の広瀬直己社長(中央)=2016年3月11日、同原発緊急時対策室(代表撮影)

 廃炉を決めた電力会社は従来、それによって会計上生じる損失を一括で処理しなければならなかった。しかし、新制度では、それを10年間にわたって分割して処理できるようになった。しかも、電気料金に上乗せして回収する仕組みなので、経営の負担は軽くなる。

 金森らが試算したのは2014年のため、この優遇措置を織り込んでいなかった。

 金森はこの点を踏まえて言う。

 「15年の制度変更で『最大』のケースはなくなった。廃炉を決めても電力会社の会計への影響は小さい」...

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