点検が行われている柏崎刈羽原発6号機の原子炉建屋内=2016年1月
「第4部 再稼働 何のために」紹介

東京電力柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。の再稼働は何のためなのか。連載企画「原発は必要か」の第4部では、再稼働問題をめぐる東電の経営事情や、原発が抱える課題を探る。(文中敬称略、本編全8回)

<1>首都圏向けの供給過剰に

電力小売り全面自由化に伴い、家庭向けに参入した「新電力」と、長年市場を支配してきた東京電力との攻防が首都圏で展開されている。

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<2>自由競争下で値下げ実現

日本経済を支えるために、柏崎刈羽原発の再稼働が必要だ-。地元経済界ではそんな声がよく聞かれる。

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<3>東京電力の原子力コスト「9・8円」

電気は足りている。それでも原発の再稼働が望まれるのは、発電コストが安いとされているからだ。

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<深掘り>発電コスト試算、45年のデータ精査

新潟日報社が東京電力の原発の発電コストを試算すると、1キロワット時当たり「9・8円」で、火力発電よりも高かった。

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<4>発電ゼロでも巨額の経費

原発は事故のリスクを加味すれば、決して発電コストが安いものとは言えない。東京電力社長は「経営安定のために柏崎刈羽原発の再稼働が必要」と強調する。

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<5>回収できなければ投資は「不良債権」に

柏崎刈羽原発の敷地内はこの5年で大きく変わった。海沿いには城壁のような防潮堤がそそり立つ。構内道路沿いの緑地帯は、火災の延焼を防ぐためモルタルで固められた。

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<6>全基廃炉でも最小で赤字2911億円

「柏崎刈羽原発の稼働は私たちの経営にとって非常に重要だ。動かす必要がないと思っている経営者はいない」。

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<7>原発事故再発なら賠償は困難

東京電力が福島第1原発事故で被災者に支払った賠償額は6兆円を超えた。しかし、民間保険の上限は1原発当たり1200億円にとどまる。

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<8>コスト削減、問われる安全との両立

電力の小売り全面自由化で参入した新規小売り事業者を迎え撃つ東京電力。価格競争で優位に立つために取り組む経営課題がコストの削減だ。

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〔とじる〕

[原発は必要か]のラインナップ

第1部 100社調査

柏崎刈羽原発が地域経済に与えた影響を調べるため、地元企業100社を調査した。浮かび上がったのは、原発と地元企業の関係の薄さだった。

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第2部 敷かれたレール

福島第1原発事故の影響が続く中、東京電力が柏崎刈羽原発を再び動かすレールが着々と敷かれる。誰が、なぜ原発を動かそうとしているのか-。

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第3部 検証 経済神話

再稼働を巡る議論で「原発は地域経済に貢献する」との主張があるが、それは根拠の乏しい「神話」ではないか。統計を基に虚実を検証する。

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第4部 再稼働 何のために

柏崎刈羽原発の再稼働は何のためなのか。再稼働問題を巡る東京電力の経営事情や、原発が抱える課題を探る。

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第5部 依存せぬ道は

再生可能エネルギーの成長が加速する世界的潮流に逆行するかのように、日本で原子力を再評価する動きが目立つ。エネルギー事情の実相を追う。

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〔とじる〕

【2016/4/26】

 原発は事故のリスクを加味すれば、決して発電コストが安いものとは言えない。それにもかかわらず東京電力社長、広瀬直己(63)は「経営安定のために柏崎刈羽原発新潟県の柏崎市、刈羽村にある原子力発電所で、東京電力が運営する。1号機から7号機まで七つの原子炉がある。最も古い1号機は、1985年に営業運転を始めた。総出力は世界最大級の約821万キロワット。発電された電気は関東方面に送られる。2012年3月に6号機が停止してから、全ての原子炉の停止状態が続いている。東電が原発を再稼働させるには、原子力規制委員会の審査を通る必要がある。7号機は2020年に全ての審査に「合格」した。の再稼働が必要」と強調する。

 見方を変えれば、稼働しない原発は経営の重荷であるかのようにも聞こえる。そうした原発の負の部分を示す東電の数字がある。

 「1兆4483億円」

 2012~14年度の有価証券報告書に記された「原子力発電費」の合計だ。東電福島第1原発事故2011年3月11日に発生した東日本大震災の地震と津波で、東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の6基のうち1~5号機で全交流電源が喪失し、1~3号機で炉心溶融(メルトダウン)が起きた。1、3、4号機は水素爆発し、大量の放射性物質が放出された。による設備復旧や被災者への賠償にかかる費用は含まれていない。

 この3年間は福島事故の影響で柏崎刈羽を含めた東電の原発が全基停止しており、発電電力量はゼロである。収益を生まない状態の原発を維持するため、東電はこれほどの巨費をかけているのだ。

 「金食い虫」

 新潟日報社が取材した複数の経済学者が、止まっている原発をこう表現した。

 「原発のコスト」の著書で知られる立命館大教授、大島堅一(49)=環境経済学=もその一人で、こう解説する。

 「原発は止まっていても固定的にかかる費用が大きい」

 原発は安定的に稼働していれば燃料費が安いという強みを持つ半面、止まった際に節約できる費用の幅が小さい。停止が続くほど維持コストがかさみ、経営の重荷になるとの分析だ。...

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