【2021/05/21】

 平日の午前中、長岡市川口地域のスーパー「安田屋(あんたや)」に、近所に住む上村光一さん(64)が訪れた。地場の野菜や精肉、総菜が所狭しと並ぶ店内をぐるっと回ると、店を出た。夕食の品定めなのだという。家に帰り、改めて冷蔵庫をチェックし、午後に再び買い物に出掛けるのが日課だ。

 長く故郷を離れていたが、2004年10月の中越地震をきっかけに、高齢の両親が住む川口へ戻った。会社員として東京で暮らしていた時、家事と育児は看護師の妻と助け合ってきた。定年退職後の今も、働いている妻と娘に代わって家事をこなす。

 今はネットスーパーもあるが、素材は自分の目で確かめたいという。「店内を巡って良い物を選び取る。買い物はハンティングだよね」。身近にあるスーパーだからこそできる食材選びの喜びに、故郷の豊かさを見る。

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 人の移動の抑制が求められる新型コロナウイルス感染下。地域の暮らしを支えるスーパーは、その存在意義を増す。

 店は社長の金山チウ子さん(85)が22歳の時に創業。父が営んだ卸売りの店を、当時広がり始めたスーパーマーケットとして立て直した。「トラックで野菜や果物を運ぶ若い女性社長は珍しがられたよ」と振り返る。

 スーパーには新鮮な肉が不可欠だと、精肉に力を入れた。金山さんは肉を加工する機械を業者から買い取り、農協の作業場で使い方を見よう見まねで覚えた。こだわりの肉はおいしくて質が良いと評判を呼んだ。メンチカツなどの総菜も人気商品となり経営は軌道に乗った。そんな知恵と経験を糧に、中越地震も乗り越えてきた。

 店内のイートインスペース。7、8人が座れる長いすとテーブルが置かれ、高齢者らが集う。ここで過ごすバスの待ち時間は、ささやかな楽しみの一つだ。

 ただ新型コロナウイルスの感染が広がる今、長居はしづらくなった。急峻(しゅん)な山間地に約30世帯が身を寄せ合う木沢集落に住む星野智恵子さん(85)は週2回、地域のNPO法人が運行するバスで訪れる。しかし、ほかの集落から来るお年寄りと、缶コーヒーを手に語らう機会も減ってしまった。

 「みんな(感染を)警戒する気持ちが強くて。ゆっくりもしていられない」とこぼす。

 星野さんは1人暮らし。県外に住む娘は、食材や日用品を送ってくれる。車に乗せてくれるという集落の人もいる。でも、この歳で1人で暮らせるのは、安田屋とバスのおかげだと思う。「どちらもなくなったら困る。できるだけ利用して、続けてもらわないとね」

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 人口減少により細る地域。そこに感染禍が追い打ちを掛けている。

 安田屋と同じ駅前通りに店を構える料理店「美よし」。地元企業や町内会の会合を受け入れてきたが宴会場やマイクロバスは、この1年ほど稼働していない。テークアウトを拡大して食いつなぐが、長岡市でも17日に飲食店への時短要請が始まり、厳しさが増す。

 地域経済が冷え込む中でも、3代目の綱(つな)卓さん(46)は総菜などを目当てに、地域外から人が訪れる安田屋に可能性を感じている。

 綱さんにとっては、子どもの頃から買い物をする身近な場所だ。高校時代はアルバイトもしていた。この店が地域住民に大切な場所であることを身をもって知っている。そして今、地元商工会のメンバーとして、地域の未来を考える。

 「安田屋は川口のライフライン。川口を維持していくには、核となる安田屋が欠かせない」

=おわり=

(この連載は長期企画取材班・後藤千尋、写真は新井田悠が担当しました)

◎取材を終えて 消費者の行動が重要

 この1年、外出を最小限に控えつつも、最も多く行っている場所はスーパーだ。食べたいもの、使いたいものを買える環境は、行動を制限せざるを得ない感染下でも保たれている。スーパーがいつも通り開いてくれることが、安心につながっている。

 安田屋を訪れる人も「高齢になっても自分の目で食材を選びたい」と望んでいた。大雪の日でも、高齢になっても、この町で暮らすために、住民は安田屋の存在を心強いと感じていた。

 取材中に聞いた「店から感染者を出したら、営業を続けられなくなるかもしれない」という危機感は、スーパーに限らず地域密着の多くの店が抱いていることだろう。感染拡大が続く中、地元に愛される店がなくならないように、消費者の一人としてできることを考えたい。

(後藤)