第8弾 阿賀路

新潟日報 2022/05/25
西会津編
人、文化結ぶ拠点今も
五泉市と阿賀野市、阿賀町の魅力を発信する新潟日報社のプロジェクト「未来のチカラ in 阿賀路」。3市町と隣の福島県西会津町は阿賀野川(福島県内では阿賀川)とその支流を含めた流域のめぐみを共有しています。阿賀路をたどって各地を訪ね、人々が織りなす文化や歴史、産業、芸術を紹介するシリーズ最終回は西会津町編です。
<西会津>
人口 5,797人(2022年5月1日現在)
世帯数 2,546世帯(同)
面積 298.18平方キロメートル
町の花 おとめゆり(ヒメサユリ)
町の木 キリ
西会津国際芸術村
移住、起業…新たな価値創造
かつて木造校舎の教室だった大きな部屋に、ピアノとドラム(太鼓)が置かれている。床の上には、さまざまな打楽器も並ぶ。
「太鼓から聞こえてくる音を言葉にしてみよう」
「ポワン」「テテロテロ」「ブオーン」「スシースァ」-。
技巧を凝らした太鼓奏者の音を聞き、参加者が自由に聞き取った音を言葉にしていく。開放的な雰囲気の中、打ち解けた参加者たちは、打楽器を手に全員で即興曲を歌ったり、踊ったり。笑顔が広がった。

■広がる魅力
福島県西会津町新郷に廃校になった中学校舎を利用した文化交流施設「西会津国際芸術村」。大型連休中の5月3日、この施設で、言葉と音をテーマにしたワークショップがあった。
地元書道教室による企画展に合わせて行われ、書道教室の子どもたちをはじめ、本県など全国から約50人が集まった。
ピアノを弾きながら講師を務めたのは谷川賢作さん(62)だ。谷川さんは父親で詩人の俊太郎さんと朗読と音楽のコンサートを全国各地で開催している音楽家だ。
太鼓を演奏したのは、芸術村に滞在しながら創作活動をしていたパーカッショニストの永井朋生さん(46)。息の合った共演だが、谷川さんと永井さんは数時間前に会ったばかり。谷川さんは「みんなと打ち解けられる独特の雰囲気、アットホームな感じがある」と芸術村の魅力を語った。共演した永井さんは「取り組みたいアイデアを実現するためにいろいろ対応してくれる。スタッフの能力が高い」と評価した。
■暮らし発信
芸術村は2004年にオープンした。作品展示やワークショップ、創作活動はもちろん、地域文化育成やグリーンツーリズムなど、手がける取り組みは多岐にわたる。創作に没頭する国内外アーティストの滞在も受け入れてきた。
阿賀野川(阿賀川)の舟運や会津街道がにぎわった時代、西会津の宿場町は人や文化が交わる拠点の一つだった。現代の西会津町で新たな山あいの暮らしを発信し続ける芸術村は、本県と福島県を結ぶ阿賀路の拠点の一つとして、存在感を増している。
地域の課題解決にも取り組もうと、15年には移住定住相談部門も設置。19年にはイベント型レストラン・カフェの運営や、空き家活用を促進する木工房の運営にも乗り出した。
移住定住の相談は、ウイルス禍に見舞われた20年以降、急増した。相談を担当してきた芸術村コンシェルジュの山口佳織さん(38)は「地方が見直され、移住者がさらに新しい移住者を呼び込む状況が生まれている。今後は、町に深く関わり続けてくれる関係人口を増やしたい」と話す。

■課題解決へ
芸術村を通じて移住してきた人たちは20~30代が中心で、30人以上になる。起業した事業も和紙工房や革かばん工房、デザインプロデュース、ゲストハウスなどさまざまだ。
新しい価値観を創造、発信する芸術村の活動が、これまでにない起業につながった。町の歴史や文化、伝統と融合した新たな山の暮らしが芽吹き始めている。
今後の取り組みについて、芸術村を管理運営する一般社団法人BOOT代表理事の矢部佳宏さん(43)は「芸術村は、人口が減り続けるこの町でどう生きていくのかを主体的に考える施設でもある。阿賀路でつながる地域とも連携し、課題解決を図る場をつくり続けたい」と話している。
健康ミネラル野菜
土壌改善進めブランド化
福島県西会津町では、町を挙げた「健康ミネラル野菜」作りが行われている。安全でおいしい野菜生産を目指した土壌改善の取り組みは20年以上になる。町のブランド野菜としても浸透しており、道の駅の売店には本県などからのリピーターが旬の食材を求める姿が見られる。

5月の大型連休、同町野沢の「道の駅にしあいづ」の売店にはアスパラやウド、クキタチ、ニラなどの野菜が並んだ。これらは町内で作られた健康ミネラル野菜だ。開店早々に訪れた人たちが次々とお目当ての野菜を手に取ると、レジに行列ができた。
道の駅にしあいづ駅長の鎌倉明雄さん(56)は「健康ミネラル野菜は野菜本来の栄養素や甘さがあると評判で、福島県内ではブランド野菜として知られている」と話す。
売り場にも立つ鎌倉さんによると、本県から買い求めに来る人は多く、何度も訪れるリピーターが目立つという。
町がミネラル野菜作りに取り組み始めたのは1998年。「健康な土づくり」を掲げる先進地の熊本県への農家研修を行い、普及拡大に努めてきた。2000年には家庭菜園に取り組む女性たちが集まり「にしあいづ健康ミネラル野菜普及会」を発足。会員は現在、60人以上だ。
普及会会長の物江義栄さん(65)は「安心でおいしいミネラル野菜を広めようと女性たちが先頭に立って進めてきた。ブランドとして認められ、安定的な収入にもなった」と取り組みが広がった理由を説明した。
ミネラル野菜に大切なのは、バランスの取れた土づくり。取り組み前の畑の土壌は、窒素、リン酸、カリウムが過剰でミネラル成分が極端に少なかったという。
ミネラル栽培の畑ではマンガン、鉄、銅、亜鉛、ホウ素のミネラル5成分を含む19項目の土壌分析が定期的に行われる。分析結果に合わせて必要な肥料が施され、土壌が改善される。町は分析費用を助成するなどしてきた。
高齢化や担い手の減少は西会津町でも課題だが、町の調べで、ミネラル野菜の総販売額は07年は約6700万円、20年には1億500万円となっている。町には全国から視察や問い合わせが寄せられている。
物江さんは「おいしいものを作れば、消費者に選んでもらえる。今後も町の特産品づくりに協力していきたい」と笑顔を見せた。

大山祇神社
水源の神、本県からも参拝
3年続けてお参りすれば、なじょな(どんな)願いもききなさる-。福島県西会津町野沢にある
祭られているのは、山々を守護する神「
同神社の伊藤仲宮司(45)は「阿賀野川流域の田畑を潤し、海に注いで漁場へ恵みをもたらすとして、神社には農業や漁業関係者が多く訪れる」と説明する。
奈良時代の778年から続くとされる神社がにぎわうようになったのは明治期に入ってから。当時の宮司が村々を回り、ありがたさを説いたのが契機になり、村単位で参拝に訪れる風習が広がったという。
「野沢は宿場町でしたから、参拝は慰安旅行も兼ねていたのでしょう」と伊藤宮司。現代も信仰を集めており、1998年ごろには年間約30万人が訪れ、そのうち6、7割は新潟県民だという。
ウイルス禍で減少していた参拝者は今年に入って戻りつつある。6月の1カ月間は家内安全・五穀
問い合わせはにしあいづ観光交流協会、0241-48-1666。

