【2021/02/22】
「体調は大丈夫ですか。今日も寒いので暖かくしててくださいね」
妙高市長沢の高齢者向け冬季共同住宅「長沢いきいきホーム」の世話役、白井加代子さん(72)の明るい声が朝を呼び込んだ。
管理するNPOからの依頼で、世話役は共同住宅の共有部分を掃除し、入居者の話し相手にもなる。朝は健康確認を兼ねて居室を回り、声を掛ける。共同住宅の近くに住む白井さんは、2012年の開設当初からの世話役。今冬は入居する3人の表情や様子を念入りにチェックしている。
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新型コロナウイルス禍に揺れる冬、共同住宅を訪れる人は少ない。ウイルスへの不安や自粛ムードは、感染者の多い都市部から離れた長沢地区も同じだ。
市内の感染者は21日現在6人だが、共同住宅から約1キロの県境を越えた長野県の感染者数は本県の倍以上の2300人を超える。県内でも高齢者施設に感染の波が広がっている。
マスクの着用や毎日の検温といった例年にはない約束事があり、戸惑いを隠せない入居者もいる。「ウイルスに負けないようにと言い合っています。さみしい思いをしているはずだけど、元気に一冬を越えることが何よりだから」。白井さんは励まし続ける。
昨年まで共同住宅では毎月2回、長沢の高齢者らが集まる「つどい」と呼ばれる催しが開かれていた。煮物や漬けものを持ち寄り、共有スペースのテーブルは手料理で埋め尽くされた。おしゃべりのほか、折り紙や紙芝居なども楽しんだ。
「長沢のしょ(人)はいいしょでさ。たいしたもんだったよ」。隣の平丸地区から共同住宅に入居する吉川トシ子さん(92)は地域の温かさを感じた。
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だが、今冬は密集を避けるため一度もつどいが開かれていない。地元の高校生や子どもたちとの交流会もない。10人も20人も集まった共有スペースは静けさが漂う。にぎわいの記憶は遠い昔のことのように感じられる。
入居者の日常も変わった。毎日午前と午後に、それぞれの居室に集まるお茶飲みの回数を減らした。世話役も一緒にこたつを囲み、世間話や思い出話が弾む団らんは、今にして思えば大切な時間だった。
「あれが元気の源だったと思うよ」と吉川さん。耳が遠くなり、マスク越しでは話が聞き取りにくい。「ここに何年もいるけれど、この冬はちょっと別だ」とため息を漏らす。
テレビやラジオをつければ、ニュースは日々の感染者数を伝える。ウイルス禍は80年、90年という長い年月を生きてきた入居者にとっても経験がない。
大野文子さん(85)もさみしさを募らせる。「みんなで笑って、にぎやかに過ごすのが楽しみなんだけどね」
言いようのない不安を抱え、1人で自室で過ごす時間だけが増えていく。