【2021/04/26】

 新潟県立大学(新潟市東区)の一室に3月中旬、学生10人ほどが集まった。保育士らを育成する子ども学科が、授業の一環として企画する「ファミリーコンサート」の引き継ぎのミーティングだ。

 コンサートは2014年度から毎年夏に新潟市江南区文化会館と共催してきた。出演から裏方まで学生100人以上が関わる子ども学科の一大イベントだ。

 「衣装の費用は安く抑えつつ、どう自分たちの理想のものを作り上げるかが頭を使う部分かな」「練習でせりふを変えることもあるから、その都度誰かが台本を直すようにした方がいいよ」。卒業を間近に控えた20年度の舞台監督、桑野由衣さん(22)と助監督の内山実梨さん(22)は自分たちが感じた課題を一つ一つ、後輩たちにアドバイスした。

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 この1年前、2人はリーダーとして困難に直面していた。新型コロナウイルスの感染拡大で「いつもの年と違うことだらけだった」と桑野さんは振り返る。

 夏の開催は見送り、21年1月に延期した。感染下で前期(4~9月)は学生の構内立ち入りが原則禁止に。例年であれば、週1回以上は顔を合わせていたが、それができなくなった。結果、打ち合わせや踊りの振り付け、歌の練習などはオンラインで行った。

 振り付けなどを担当した内山さんは「対面なら声を掛け合えるけれど、オンラインだと声がかぶるのを気にして、みんな遠慮してしまう。空気を読み取れず、自分一人だけが話している感じだった」。メンバーと自分の間で、モチベーションに差が生まれていないかが気になった。

 演出の変更も必要となった。学生は客席に行かない、肩を組むなど接触を伴う振りは避ける、ステージ上で密集しない…。「先輩たちの蓄積をリセットして、感染対策を前提としたコンサートをつくらなければならなかった」。現場を仕切る桑野さんは悩んだ。

 だが、こんなときだからこそ、子どもたち、お客さんに楽しんでもらいたい-。逆風の中で、その思いはより強くなった。さまざまな制約を課せられたが、やるしかなかった。

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 迎えた1月の本番。オンラインで苦戦した振りや歌は思った以上にうまく仕上がった。2人が追い求めた「いいコンサートにしたい」というモチベーションは、照明や音響などの裏方を含め、メンバー全員が共有していたと感じた。

 何より、客席には例年と変わらない子どもたちの笑顔があった。成功だった。

 コンサートは学生の主体性を育て、企画力や表現力などを身に付けることを目的とする。4月から桑野さんと内山さんは、目標だった保育士の道を歩み始めた。「行事などで、どうしたら園児や保護者に楽しんでもらえるか。今回の難しい状況を乗り切った経験が、きっと生きる」と、2人は信じている。