【2022/06/26】
昨年秋から展開してきた長期企画「政治はどこへ」では、実施から25年がたった衆院選の小選挙区比例代表並立制のあり方、新潟県発展の転換点と県勢の失速などを探り、政治の歩みを見つめ直してきた。多くの関係者の証言から、選挙制度の利点や課題が明らかになった。県内総生産の低迷など目を背けたくなる「不都合な事実」とも向き合い、新潟の現在地を浮き彫りにした。地方にとって選挙制度はどうあるべきか、停滞した県勢はどう上向かせるべきか-。シリーズの結びに、これまで取り上げてきた発言、発案を提言としてまとめる。(長期企画取材班・鈴木孝実)
「政治とカネ」を巡る問題から政治不信を招いた昭和末期。国会は政治改革に着手したが、本質的な議論は選挙制度の改革へとすり替わった。
「いつの間にか政治改革とは選挙制度改革であって、小選挙区制に変えることであるという流れになってしまった」。小選挙区制導入に関わった元自民党総裁の河野洋平は悔やむ。
一方で、河野と制度導入の合意文書を交わした元首相の細川護煕は「中選挙区制では、野党は多くの選挙区で1人しか候補を立てられなかったが、小選挙区制で与党と対等に立てられるようになった。おかげで政権交代が実現した」と意義を語る。
2009年、自民の大敗で民主党政権が誕生した。政権交代の実現を味わった野党議員は多くが現行制度を支持している。民主政権時代に首相を務めた野田佳彦は力説する。「政権交代が可能な二大政党制を指向できる。選挙ではサービス合戦にならず、カネもかからなくなった。メリットは間違いなくあった」
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一方、少数政党を救う比例代表制の並立は、ひずみも生んだ。選挙区と比例に名を連ねる重複立候補を可能にした。21年衆院選では本県の自民が小選挙区で2勝4敗と負け越したが、敗れた4人全員が比例復活。民意と異なる形で、与野党議員の数が逆転した。
選挙区で「ノー」を出された候補が復活する仕組みは、選挙の意味そのものを揺るがし、政治不信を助長しかねない。駒沢女子大教授の弥久保宏(三条市出身)は「候補が保険をかけて戦うようなもので、理解は得られない。重複は廃止が望ましい」と指摘する。
地方を脅かす問題も生じている。首都圏などの大都市と地方で議員1人当たりの有権者数が違い、投票価値の不均衡ができているとする「1票の格差」だ。
最高裁が格差が2倍を超える衆院選に「違憲状態」の判決を繰り返したことで、国会は定数見直しに追い込まれた。今月16日に示された新区割り案では、本県を含む10県で定数10減、東京や神奈川など5都県で10増となった。
1997年をピークに人口が右肩下がりの本県にとって、人口ベースの議員定数見直しは議員の減少に直結する。地方の声が国に届きづらくなるとして、衆参問わず本県関係議員の大半が危機感を募らせる。参院議員の佐藤信秋は「面積と人口を考慮した制度に変えるべきだ」と訴える。
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中選挙区制時代、元首相の田中角栄を筆頭に閣僚を多数輩出してきた本県。高度経済成長に乗ったという面もあるが、本県の政治力が強かったのは確かだ。
だが、小選挙区制の導入で議員は専門分野を突き詰めるプロフェッショナルより、どの分野にも目を配るオールラウンダーへ変化。特に自民で党内競争が失われ、世襲議員が増えた。議員が「小粒化した」との指摘も絶えない。
ベテラン議員を中心に中選挙区制への回帰を望む声も多い。河野は「定数3の選挙区を全国に100つくる」という腹案を持っていた。小選挙区制より穏やかな政権交代の可能性を持ち、多様な個性を持った議員が生まれるという理屈だ。
選挙制度改正を求める声が大きいのは参院も同じ。解散がなく、任期6年で政策にじっくりと取り組めることから、「人口比によらない地域代表の性格を強めるべき」という論調だ。
参院も衆院と同様に1票の格差が問われ、国会は2015年の公選法改正で「鳥取・島根」「徳島・高知」の合区を採用した。衆参ともに地方選出議員の枠が縮小していけば、大都市偏重の政治になりかねない。
「衆院と参院の役割をもう一度議論する。憲法改正までいくかもしれないが、新しい民主主義の根幹を議論する時期にきているのではないか」。前衆院議長、大島理森の訴えは重い。(敬称略)