「新潟館ネスパス」に故郷の食材を買いに訪れた宮澤麻実子さん。帰省できないため、初めておせち料理に挑戦した=12月30日、東京・表参道
「新潟館ネスパス」に故郷の食材を買いに訪れた宮澤麻実子さん。帰省できないため、初めておせち料理に挑戦した=12月30日、東京・表参道

【2021/01/03】

 故郷には寒波への警戒が呼び掛けられていたが、東京は青空だった。新潟県十日町市出身で東京都大田区の会社員、宮澤麻実子さん(34)は2020年の年末、東京メトロ表参道駅からほど近い交差点で、遠く離れた故郷の曇天を思い浮かべた。すでに積雪が1メートルを超えたと聞いた。「最近は少雪だったので母もびっくりしていますよ。実家は大丈夫かなあ」

 心配とは裏腹に母と兄の家族が暮らす実家にはもう1年近く帰っていない。これほど長い間、帰省しないのは初めてだ。

 働いている東京・大崎の高層オフィスビルでは、毎週のようにテナント入居者で新型コロナウイルスの感染者が発生したとメールが送られてくる。「○階・陽性者×名、最終出社日○月×日、消毒済み」。事務的なその文体には「もう慣れた」。これまでに30件以上あったといい、ウイルスと隣り合わせの日々は「もはや日常です」と苦笑する。

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 東京都内の新型ウイルスの感染者数は累計6万人を超え、新潟とは桁違いだ。兄には持病があり、感染させてしまったらという不安も頭をよぎる。

 「もし帰省して何かあったら大変ですよ」。年に3、4回は帰っていた故郷は今、とてつもなく遠い。

 東京で迎える、さみしいお正月に彩りを加えたい。そこで思いついたのがおせち料理を初めて作ってみることだった。自宅にこもる日々が続き、料理をする機会が多くなったことも後押しした。

 この日、表参道駅にほど近いアンテナショップ「新潟館ネスパス」を訪れた。店内は、自分のように、新年に故郷の食材を求める人でにぎわっていた。

 黒豆や田作りを用意し、新年の健康を祈った。「こんなに時間がゆっくりと流れている正月は初めて」。今年だからこそできたことだった。来年は品数を増やし、家族にも味わってもらえたらうれしい。

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 旧栃尾市出身で東京都千代田区の会社員、清水裕美子さん(54)は、88歳の父の様子が気にかかる。20年9月に軽い脳梗塞で倒れたが、東京からでは面会もままならなかった。その後も会えていない。

 「いざというときに会えないのはつらかった。今も帰れないか考えているぐらい」。新年を迎えた1日、清水さんは漏らした。でも今帰れば、「周囲から『来て大丈夫なの』と言われてしまう」と顔を曇らせた。

 せめてもの新年のお祝いにと、夫と育てた白菜や大根などの冬野菜を実家に送った。「離れていても同じものを食べていれば健康を確かめ合えるかな」。そんな思いを込めた。

 2人で暮らす父母には電話で「おめでとう」と伝えた。通話を終えると、もどかしさばかりが募った。「会えない距離ではないのに、どうして会えないの。どうして感染は収まってくれないの」