【2021/06/21】
「ネットにね、歌声喫茶で感染者が出たって」。新潟市中央区古町地区にある「喫茶マキ」のオーナー、山口禮子さん(81)は店に戻ると慌てた様子のスタッフから、そう告げられた。さらに、ネット情報を端緒に、その歌声喫茶がマキだと、うわさされていると知人は言った。身に覚えがなく、「青天の霹靂(へきれき)って、こういうことなのかと思った」。
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1月29日、新潟市が公表した新型コロナウイルスの新規感染者の中に、歌声喫茶の時間を設けている飲食店経営の中央区の70代女性という情報があった。
マキは1969年創業。10年以上前から歌声喫茶を始め、月4回の催しにはいつも40人以上が集まった。高齢の女性経営者と歌声喫茶というキーワードが独り歩きし、広く知られる老舗喫茶店を連想させた結果、「マキのママが感染した」との風評につながったと山口さんは考える。「70代も80代もはたから見れば同じ。私がお客さんの立場なら、そう(マキ)だと思う」
風評が出た直後から歌声喫茶は休止した。精神的につらかった。「白い目で見られているような気がして」。正面から聞いてくれればいいが、陰口を言われ、誤解を解けない方が苦しかった。その一方で大勢の客が応援に駆け付けてくれた。「ママは元気よ」と風評払拭(ふっしょく)に協力してくれた人たちがいた。そうした思いが「本当にありがたかった」。
マキはホームページに「感染者が確認されている喫茶店ではありません」というメッセージを掲載している。山口さんは訴える。「間違いだと分かったら、うわさを流した人やネットに書いた人も、ごめんなさいと訂正してほしい。そういう気持ちがないと風評や誹謗(ひぼう)中傷は、どんどんひどくなる」
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1度貼られた「レッテル」は簡単には消えない。阿賀野市の居酒屋では、虚報に振り回されてから1年以上たった今でも、「そういえば、ここって」と言われるという。
阿賀野市では昨年4月上旬、初めて感染者が確認された。間もなく同市の居酒屋「串ひろ安田店」に、感染者が来店していたらしいとの不確かなうわさが「口コミ」で広まり始めた。
「『どこかに飲みに行ったらしい』から始まって、どこかが串ひろに変わり、最終的に『行った』になった」と店長の池田さよりさん(32)。昨年4、5月の店の売り上げは前年同月比で8~9割減少した。
「来るか悩んだよ。ここで(感染者が)飲んでいたって聞いたからさ」といった話を耳にすると、池田さんは悲しくなった。「従業員はみんな自分の生活を、家族を守ろうと頑張っているのに」
人の口に戸は立てられない。とはいえ「その話は事実なのか、しっかりと確かめないと間違った『伝言ゲーム』になってしまう」と池田さんは強く思う。
感染下には、さまざまな情報が飛び交う。「らしい」で日常が一変する。その危うさを痛感する。