【2021/06/22】

 自分が陽性になったら、自分の周りの人はどこまでが「濃厚接触者」になってしまうのか。一緒にスキーに行った友人、友人が世話をする高齢の父親、交代で父親の面倒を見る友人のきょうだい…。それを想像すると薄ら寒い気持ちになった。

 五泉市の安西孝幸さん(66)=仮名=はこの春、妻の勤務先から新型コロナウイルスの感染者が出たことを発端に、「濃厚接触者」となった状況を振り返る。「『県内の感染者は何人でした』というのをテレビや新聞で見るたびに大変だと思っていた。でも、いざ自分が巻き込まれると想像を超えて、波紋が広がるように不安がどんどん大きくなった」

 安西さんが、妻から職場で感染者が出たという電話を受けたのは、友人と2人で県内のスキー場に出掛けた帰り道だった。

 「もしおれが陽性だったら、お前も濃厚接触者になるかもしれない」。2人だけの車中で友人に告げた。高齢の父親がデイサービスを利用している友人は、特に不安そうな表情を見せなかったが、ぽつりとつぶやいた。「おやじのこと、どうしようかな」

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 安西さんの妻は陰性だった。だが、自宅には生まれたばかりの孫の顔を見せたいと、里帰りした娘が泊まっていた。念のために民間のクリニックで受けたPCR検査で、娘は陽性と判定された。安西さんや娘の夫らも検査を受けたが、結果は陰性だった。

 保健所からは、安西さんを含めた家族は娘の濃厚接触者として2週間、自粛して自宅から出ずに生活を送るよう指導された。しかし、安西さんは市内の特別養護老人ホームで3日に一度、宿直勤務をし、年金と合わせて生計を立てていた。

 職場に濃厚接触者となったことを伝えて休んだ期間は、他の2人が交代で勤務してくれた。でも、年度替わりも近づく中で「2週間も休むことになれば、誰か代わりの人を(雇う)という話になってもおかしくないと心配だった」。

 娘は周囲から感染した人が出なかったこともあり、数日後、入院先であらためてPCR検査を受けた。複数回行った結果は全て陰性。「偽陽性」として最初の検査結果は取り下げられた。安西さんに妻から電話があった日から数えて、10日ほどがたっていた。

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 安西さんは振り返り、「ものすごい忙しさの中で感染した人の行動を聞き取り、市民や県民を守っている保健所の役目は理解している。感染した人が一番つらいことも確かだ」と思う。

 しかし、身をもって知った。日々のニュースで報じられる感染者の人数以上に、数え切れないほどの濃厚接触者が不安な時間を送り続けていることを。そして、その誰もが仕事や学校、育児、介護など、何かを背負っている。

 「どこにでもそういう人がいるかもしれないということに、目を向ける社会になってほしい」。そう考えるようになった。