政治の力への期待を込めて、地域の実情や住民の思いを伝える衆院選連載「知ってほしい」。今回のテーマは「織物産地」です。

 十日町市の着物メーカー「青柳」の工房に入るとちょうど、のりの入った染料を白生地に塗る「型付け」の作業中だった。「簡単そうに見えるけど、すごく難しいんですよ」。型紙の上に慣れた手つきで木べらを滑らせるベテラン職人の作業を、会長の青柳安彦さん(79)が見守る。

 市観光協会の会長も務める青柳さんは、十日町を売り込む手段として着物を前面に出そうと動いてきた。3年前からは着物関連の催しを4~5月に集中させ、「きもの月間」として発信する。

 市の成人式と同じ5月3日に開かれるメインイベントの一つ「きものまつり」では、歩行者天国の商店街でさまざまな催しを展開。例年、市内外から着物ファンら約3万人が集まり、にぎわいをみせてきた。月間中に全国の消費者を招待する大型販売会も定着した。各社一斉の工房の見学会も好評だった。

 しかし、そこを新型コロナウイルス禍が直撃した。ことしのまつりは延期して開催予定だったが、結局中止に。31日投開票の衆院選に話が及ぶと、「本当は、その日が『きものまつり』のはずだったんだが」。青柳さんは、複雑そうな思いを口にした。

 まつりを含め、「きもの月間」の多くのイベントが昨年に続き、中止となった。「着物産地十日町の魅力として、ようやく知られてきた取り組み。さすがに3年連続だと、再浮上できないかもしれない」と危機感を抱く。

 ウイルス禍の中、イベントだけでなく、着物の製造・販売面への影響も深刻だった。昨年3月以降は、全国の卸問屋や小売店が販売会などの開催を取りやめた。首都圏の百貨店や大型店の休業で、テナントも営業できなくなった。

 「昨年の4~6月が最も悪かった。うちもそうだが、産地全体の売り上げも、前年比で5割減にまで落ち込んだ」。その後はやや持ち直したものの、度重なる緊急事態宣言下、華やかな着物は買い控えの空気が続いてきた。

 最近、首都圏での感染第5波がようやく落ち着き、売り上げも何とか上向きに転じた。大型店の催事も動き始め、産地にもバイヤーの姿が見られるようになった。「これからでしょうね」。青柳さんは言葉に力を込める。

 観光面でも来年は、1年延期された「大地の芸術祭」が夏に予定されている。「春の着物シーズンで盛り上げ、夏の芸術祭でさらに勢いが付けば。経済を盛り返すためにも、観光振興のためにも、第6波はなんとしても抑えてほしい。ずっとがまんしてきのだから」。政治の采配に期待する。

(十日町支局長・与口幸子)

◎資金面の支援を期待

青柳安彦さんの話 着物文化の盛り上げにも期待したいが、それらは余裕の中でこそ生まれるもの。まずは感染症を収束させ、経済の立て直しを図ることが先決。ワクチン接種を、3回目や子どもへの拡大も含め速やかに進めてほしい。観光面では、地域の魅力づくりは地元で知恵を絞るので、資金面での支援を期待する。