【2021/01/18】
母子が個室で穏やかに過ごしている午後。授乳の時間が近づくと、静まりかえった廊下にまで赤ちゃんの元気な泣き声が響いた。
三条市の産婦人科医院「レディスクリニック石黒」。新型コロナウイルスの感染が広がる2020年2月までは、家族や友人らが個室に集った。生まれたばかりの赤ちゃんを囲み、にぎやかな時間を過ごしていた。
だが現在、新型ウイルスの感染予防のため、入院中の人以外は家族も病棟に入ることができない。赤ちゃんに会えるのは退院の時を待たなくてはならない。
長男を出産した新潟市南区の白沢由実さん(34)=仮名=は、家族らがたびたび面会に来てくれた、2年前の長女の出産を思い出す。
「誰も来ないのは寂しい。でも体をゆっくり休めることができている」。前向きに捉えるようにしている。
それでも、弟の誕生を楽しみにしていた長女に早く会いたい。病室で一人、待ち遠しく思っていた。
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平日、日中の待合室。診察を受ける女性が静かに待っている。
夫や子どもが妊婦の診察に付き添い、和やかな空気が流れていた、新型コロナウイルス感染拡大前と様子は変わった。それまでは、ソファに座った家族が、おなかにいる赤ちゃんの超音波検査の写真を見たり、名前を考えたりしながら、誕生を待ちわびていたのに。今は待合室にさえも本人しか入れない。
12月初旬の朝、新潟市南区の自宅で目覚めた白沢さんは、おなかの痛みを感じた。2歳の長女を保育園に送る際、「良い子で待っていてね」と語り掛け、そのままクリニックに向かった。
県内でも連日、感染が確認されていた。社会はウイルス禍の中にある。「こんな大変な時期に無事に産めるだろうか」と不安も抱いた。でも長女は「赤ちゃんはもうすぐ生まれるの?」と楽しみな様子だった。
出産後、5日間ほど家族と離れた。生まれたばかりの長男との時間を過ごしながら、家族への思いが募った。妊娠中は外出を控えていたので、ここ1年近く写真もあまり撮っていない。これからは遠出ができなくても、家や近くの公園で、2人の成長を記録し続けたいと思った。
雪がちらつき始めた日、退院する白沢さんを夫と長女が迎えに来た。久しぶりに会えたお母さんの腕には、小さな弟が抱かれている。長女は腕の中の弟をそっとのぞいた後、白沢さんに抱きついた。「頑張ったね」と褒めると、長女は恥ずかしいような、うれしいような表情を見せた。
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クリニックに入院しているのは、出産を終えた人だけではない。赤ちゃんは母親の体内で40週前後を過ごすが、十分に成長していない37週より前に産まれるリスクが高まる「切迫早産」となる人がいる。長ければ3カ月近く入院し、安静を保たなければならない。
11月に次男を出産した三条市の山口祥代さん(29)=仮名=は、切迫早産で予定日より7週前に入院した。ほとんどの時間をベッドに寝たきりで過ごし、トイレ以外ではほとんど移動しなかった。
2歳の長男に会うことができず、寂しかった。スマートフォンのテレビ電話で長男と話したり、毎日夫から送られてくる動画を見て過ごしたりした。産後、自宅に戻ると、長男の体が一回り大きく見えた。「しばらく会わないだけで、大きくなるんだな」と感じた。寝たきりの状態が長かったため体力が落ちた。退院してしばらくは抱っこもしてあげられなかった長男の気持ちを思うと切なかった。
出産から1カ月。体は回復し、2人の子どもに挟まれて眠ることに幸せを感じている。「生まれてきてくれて良かった」。自然と笑みがこぼれた。