【2021/01/19】
寒さが強まり、新型コロナウイルスの感染拡大は深刻さを増していた。医療機関にとって感染防止は絶対だ。三条市の産婦人科医院「レディスクリニック石黒」では2020年12月半ば、病棟を担当する助産師と看護師が、空き病室でシミュレーションを始めた。
深夜、お産が近づいている妊婦が来院。事前の電話連絡では分からなかったが、対面して初めて、発熱や体調不良があることが分かった。新型ウイルスの感染を調べるPCR検査は夜のため、すぐにはできない。スタッフの人数が限られる中でどう対応するか-。
こうした状況を想定し、分娩(ぶんべん)室から心音モニターなどの機材を運び入れ、ベッドの周囲や床を飛沫(ひまつ)防止用のシートで覆った。
「機材をどこに置けばコードが届くか」「赤ちゃんを受け取ったらどう動けばいいか」。スタッフは延々と話し合った。
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お産が進んでいる人がいない比較的静かな午後、ナースステーションに助産師と看護師10人が集まった。
新型コロナウイルスの感染防止策などを話し合うミーティングだ。1人が「もしお産が迫った人が夜中に来て、熱があると分かったらどうする」と疑問を投げ掛けた。時間の余裕がある時にじっくり考えてみようと、シミュレーションを行うことにした。
クリニックでは、発熱などの症状があった妊婦には電話で連絡してもらい、まずは内科などを受診してもらうよう決めている。シミュレーションは、あくまで異例の事態として具体的な状況を想定したものだ。
妊婦役のスタッフがベッドに横になり、周囲を飛沫(ひまつ)防止のシートで覆った。夜間、クリニックにいる医師以外のスタッフは3人。発熱などの症状がある妊婦と接するスタッフは1人に限り、赤ちゃんを受け取る人、保育器に入れて運ぶ人と役割分担を決めた。
「赤ちゃんはお母さんから隔離しないといけないね」「生まれてすぐに、顔だけでも見せてあげたい」。生まれる前と後で、機材をどの位置に置くか、誰がどのように動くかなどの動線をチェックした。
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こうしたシミュレーションは、想定を変えながら月に数回行っている。12月以降、三条市は保育園や高齢者施設でクラスター(感染者集団)が発生し、クリニックでも緊張感が高まる。
看護師長の斎藤小百合さん(59)は「感染状況が日々変わり、対策も常に更新しなければいけない。手順の確認は何度も行う必要がある」と話した。
身近に濃厚接触者がいたり、感染者数が増えている県外の人との接触があったりした場合、感染の心配がある人にはクリニックでPCR検査を受けてもらう。院内に入らず駐車場の車内で検査する。
出産を控え、通院する県央地域の30代女性も検査を受けた。妊娠してからは特に人混みを避け、手指消毒を徹底するなど予防に注意してきた。だが、少し前、家族がよく行く場所の関係者に、新型ウイルスの感染者が出た。「今まで身近に(感染者が出たと)聞いたことがなかった。まさかと思った」
家族はPCR検査で陰性だったが、自身も念のため検査を受けた。「絶対に陰性であってほしい」。その夜は深く考えないように努めた。翌日、陰性と分かり胸をなで下ろした。
待合室ではこの日も、正面に備え付けられているテレビから、三条市内の人の陽性が確認されたというニュースが流れていた。女性は心配そうに画面を見つめた。「元気で丈夫な子が生まれてくることが一番」。それだけを願った。