赤ちゃんの小さな頭や体を丁寧に洗う助産師。赤ちゃんは泣いたり、気持ちよさそうにしていたりと、さまざまだ=三条市
赤ちゃんの小さな頭や体を丁寧に洗う助産師。赤ちゃんは泣いたり、気持ちよさそうにしていたりと、さまざまだ=三条市
助産師が指導する母親教室。新型コロナウイルス感染防止のため人数を制限して続けたが、1月から休止している=三条市

【2021/01/21】

 午前中の三条市の産婦人科医院「レディスクリニック石黒」。新生児室は、赤ちゃんの沐浴(もくよく)の時間だ。

 助産師と看護師が石けんを軽く泡立てる。そして、ガーゼタオルで赤ちゃんの頭や体をなでるようにゆっくりと洗う。手際よくおむつと服を着させ、髪の毛をとかせば、身だしなみはばっちりだ。沐浴を終えた赤ちゃんは、気持ちよさそうに眠っている。

 クリニックは母と子、2人の命を預かっている。

 助産師や看護師らスタッフは常に、入院している母子の健康状態に変化がないか、注意深く見ている。妊娠出産を前向きな気持ちで乗り切り、家に帰ってから母親が楽しく育児ができるように寄り添う。

 やりがいは大きい。「赤ちゃんが無事に生まれ、お母さんが喜ぶ姿を見ると、うれしくてたまらない」。そう口をそろえる。

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 12月中旬、切迫早産で入院していた妊娠7カ月の女性が破水した。近いうちに出産となる可能性が高い。早産の赤ちゃんは体の機能が未熟だ。すぐにクリニックからNICU(新生児集中治療室)のある市外の総合病院へ救急車で運ばれた。

 おなかの中の赤ちゃんが心配でも、自分では何もできない。女性は不安が募る中で、以前助産師から教わったお産の心構えを思い出した。「赤ちゃんに会える楽しみが、陣痛を乗り越えるエネルギーになる」

 女性は総合病院へ向かう救急車の中、同乗して付き添った看護師長の斎藤小百合さん(59)に、「赤ちゃんに会いたいから頑張ります」と告げた。

 クリニックの助産師は、妊娠出産という特別な期間を楽しく過ごしてほしいと願い、昨年中まで母親教室を定期的に開いていた。新型コロナウイルスの感染防止のため、参加者を妊婦本人に限るなどの対策を取り、お産に向けた心構えや心身を安定させる方法などを伝えた。

 斎藤さんは、車内で聞いた女性の言葉に「妊娠、出産、育児に前向きな気持ちで臨むための後押しが、少しはできただろうか」と思った。

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 出産はゴールではない。母親の中には、その後の育児に戸惑う人もいる。入院中は落ち着いているようでも、退院後「眠れない」「涙が出る」など、気持ちが不安定になりやすい。

 「育児は楽しいばかりじゃない。お母さんの気持ちを受け止めながら一緒に考えたい」。助産師となって11年目の坂井友美さん(34)は、1週間ほどの入院中に、母親とコミュニケーションを重ねる。

 退院後、入浴やおむつ替えといった育児はもちろん、食事の支度や洗濯などの家事を、家族の誰がどのように担ってくれるのか-。日々の生活を思い描いてもらうためだ。

 自身も2人の子育てをしながら、実母ら家族の協力を得て夜勤をこなしている。地域に帰る母親たちを見て「心の支えになる人がいることが最も大事だろう」と思う。一方で、家族のサポートがかなわない人もいる。自分たちはどう支援できるか考え続けている。

 出産に立ち会った助産師、看護師にとって、子どもたちの健やかな成長は「希望」だ。斎藤さんは、子どものいじめや自殺の問題を見聞きするたび、「せっかく生まれてきたのに、どうして」と心が痛む。

 その思いから、県内の助産師とつくるグループで県内の小学校に出向き、命の大切さを伝えている。

 講座では、子どもたちにこう語り掛けるという。「人と比べる必要はない。今生きているだけでいいんだよ」。命の誕生を支える身だからこそ、伝えられる命の重さがある。