【2021/01/22】
毎週水曜日の午後、三条市の産婦人科医院「レディスクリニック石黒」の待合室には、赤ちゃんを連れた母親が集まり、にぎわう。産後の母親と赤ちゃんの体調を診察する1カ月健診の日だ。
「大きくなったね」「育児頑張ってる?」。昨年11月の同じ時期に出産した3人の母親は、久しぶりの再会を喜び、日々の出来事を報告し合った。
第1子の長男を出産した三条市の小川澪さん(23)は、夜中、1時間ごとに赤ちゃんの泣き声で起き、眠れない日が続いた。つらかった。ただ、夫は何も言わなくても、自分からおむつ替えや入浴などを手伝ってくれた。うれしかった。
夫と助け合いながら、長男が成長していることを実感した。「体重が1キロ増えた」「目をじっと見てくれるようになった」。この1カ月間の一日一日を思い起こした。
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母親たちは、さまざまな思いを抱いて1カ月健診に訪れる。
三条市の30代女性は、11月に産んだ次男の診察で異常がないと分かり、「本当に良かった」と、ほっとした。
2年半前に長男が生まれた時、1カ月健診で心臓に雑音があると告げられた。クリニックに紹介状を書いてもらい、市外の総合病院を受診すると、生まれつき心臓に穴が開いている病気だと分かった。
手術で治る病気だったが、0歳児は小さすぎて手術ができず、1歳を迎えてから受けた。術後も通院が必要で、1年の予定だった育児休業を延長した。「もし良くならなかったら、と心配でたまらなかった」。胸の傷跡が痛々しかった。
長男は今、保育園で元気に過ごし、他の子どもと同じく運動できるようになった。「何よりも健康でいてくれることがありがたい」。そう思うほどに、次男が順調に育ってくれている喜びをかみ締めた。
出産後、子育ては慌ただしく始まる。子どもの年齢に応じ、関わり方や悩み事は日々変わっていく。
2月末に第4子を出産する予定の燕市の会社員、近藤麻菜代さん(37)は、働きながら家事と育児をこなす日々を送る。「現状が忙しすぎて、出産のことをゆっくりと考えていられない」
そんな中で支えになっているのが、小学生のわが子3人だ。洗濯や食器洗いを手伝ってくれる。妊娠が子どもたちの成長にもいい影響を与えていると実感する。「赤ちゃんのお世話もしてくれそう」。赤ちゃんが生まれてからの毎日を楽しみにしている。
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初めての育児は手探りだ。悩みながらも日々の成長に喜びを見いだす。
「赤ちゃんにかわいそうなことをしたんじゃないか」。11月初旬に双子の姉妹を出産した三条市の佐藤恭子さん(28)は出産後しばらく、悲しみがこみ上げることがあった。
2人とも2500グラムに満たない低出生体重児だった。一緒に泣かれると、自分一人ではどうにもできない。そんな時、涙が止まらなくなった。でも、小さな2人はそんな悩みを知るよしもない。3時間ごとに授乳し、ほ乳瓶を洗っておむつを替えれば、もう次の授乳時間がやってくる。
「今思えば、情緒不安定だったかな」。誕生から2カ月ほど、姉妹は少しふっくらとした。抱っこをしてもらうのが大好きな2人を、夫の昌宏さん(28)と交代であやす。
新型コロナウイルス禍の中でも、悲観的にはなりたくない。昌宏さんは「大変な世の中だからこそ、子育ては楽しんだ方がいい」。恭子さんは幼い頃、母が作ってくれた洋服がお気に入りだった。「両親が私にしてくれてうれしかったことを、この子たちにたくさんしてあげたい」と思う。
家族4人、あふれる笑顔で暮らしたい。そんな当たり前の未来を描いている。
=おわり=
(この連載は長期企画取材班・後藤千尋、写真は大須賀悠が担当しました)
◎取材を終えて 共感する気持ち大切に
新型コロナウイルス禍の中でも、命を迎える喜びや成長を願う気持ちが変わらずにあった。
身近な場所で子どもとの思い出をつくろうとしている人。育児をしながら両親への感謝を思う人。クリニックで出会った人たちが語った体験やその気持ちに、共感することは多かった。私たちの暮らしを明日へとつないでいくために、大切にしなければならない。
取材していた12月中旬の10日間、クリニックで19人の赤ちゃんが誕生した。県内では感染者数が日に日に増え始めた時期だった。医療機関として緊張感が高まる状況で、感染防止策を取った上で取材に協力してくれた石黒隆雄院長とスタッフ、取材に応じてくれた方に感謝している。
忙しい一日でも院長は「普通のことをしているだけ」と話していた。今までと同じにできないことがある中、できる限り普段通りに母子を支えようという姿勢を見た。これからも地域のお産を守り続けてほしい。
(後藤)