前回、J1昇格に突き進む「いま」を心から楽しみながら、このコラムをお届けしていきたいと書いたが、早速、とてもじゃないがそんな悟りを開いたみたいな境地ではいられないことを知った。

 10月1日のアウェイ、モンテディオ山形戦(J2リーグ第39節)。チームは大いに苦戦した。テンポが上がらず、前半はシュートらしいシュートを打つことができずに、逆に34分、山形に先制を許してしまう。全員が相手ゴールに向かうことを意識し、自分たちでボールを動かしながら攻撃的にプレーする新潟にとっては珍しい、そして好ましくない展開。チームの反撃を見詰めながらジリジリする焦燥感たるや。だがそういうことが起こり得るのも、またサッカーである。

山形-新潟 後半30分、新潟の谷口がゴールし1-1に追いつく=NDソフトスタジアム山形

 チームは試合残り5分で追いつき、1-1で引き分けた。FW谷口海斗が決めた同点ゴールは技巧を凝らして狡猾(こうかつ)に陥れるというより、山形の堅い守りをうがつような彼らしい一撃で(実際には反転するモーションで相手DFを釣り、股下を通す繊細さが盛り込まれていた)、その力強さは新潟で一時代を築き、いまも栃木SCで健在ぶりを見せてくれるFW矢野貴章をどこかほうふつさせる。そしてDF堀米悠斗とMF高宇洋のワンツーで中央を切り崩してゴールまで至ったプロセスには、前節・大宮アルディージャ戦(第38節○1-0)の決勝ゴールと同様、今シーズンのチームの取り組みが実によく表れていた。

山形-新潟 後半、相手と競り合う新潟の高(手前右)=NDソフトスタジアム山形

 山形戦でリズミカルにボールが動かなかったということは、攻撃の入り口と出口、パスの出し手と受け手がもう一つかみ合わなかったということだ。開幕からシーズン最終盤のいまに至るまでの戦いが示すように、「全員が主力」という信条の松橋力蔵監督がメンバーを固定することはなく、この試合も大宮戦から先発5人が入れ替わった。

 まず目を引いたのは、6月に右肩を手術したMFイッペイ・シノヅカが3カ月ぶりに左サイドハーフで先発したことだ。それからセンターバック(CB)をローテーションさせることは松橋さい配の大きな特徴で、DF早川史哉とDF田上大地のコンビは今季2度目の組み合わせだった。

 スタイル的にCBから攻撃を始めることが増えるわけだが、山形戦では相手をビビらせるような縦パスは決して多くはなかった。攻撃の入り口となるべきパスの出し手となるCBが、パスの付けどころを見つけられなかったところがあるだろうし、攻撃の出口、あるいは中継点となるべき中盤や前線がうまくボールを引き出してあげられなかったところもあるはずだ。

山形-新潟 試合終了後、敵地に駆けつけたサポーターにあいさつし引き上げる選手たち=NDソフトスタジアム山形

 あるいは右サイドハーフとして途中出場したドリブラーのMF松田詠太郎。左サイドで手数をかけて組み立てて、一気にサイドを変えたところで松田がピタッとボールを止めさえすれば一気にビッグチャンスになるところで、タッチの乱れがたびたびあった。

 新潟のサッカーがドライブしなかった理由を実戦でこなれていないメンバー編成や起用のせいだと片づけるのは簡単だ。だがむしろ思わずうなってしまうのは、松橋監督の腹のくくり方、腹のすわり方にすごみすら感じるからである。

山形-新潟 後半41分、同点とするも厳しい表情を崩さない松橋監督=NDソフトスタジアム山形

 今季、残りはこの日の山形戦を含めて4試合。しかし松橋監督のスタンスは、シーズンがまだまだ続いていくかのようである。けがの癒えたイッペイは、いずれどこかのタイミングでレギュラー争いに食い込んでくるべき存在だ。早川や田上、松田も、し烈な競争の最中で、競争こそ今季のチームの大きな原動力になっている。

 山形戦ではプレーがはまらないところもあった。だが、この試合でがっちりかみ合う可能性もあったわけで、その現実味を見据えた上での松橋監督の起用であったのは間違いない。

 もっともっと強くなりたい、チームを強くしたい。底知れない貪欲さが山形戦にはあった。挑戦と鍛錬は終わらない。

◆[大中’sEYE]GK小島亨介の落ち着きと、最後尾からのプレー
第39節・山形戦(新潟1-1山形

 山形戦で思わず『あ、ヤバい!』と思ったのは83分のことだった。1点を追い、同点はもちろん逆転するために猛反撃を仕掛けて押し込む中、GK小島亨介がペナルティエリアを大きく出てバックパスを蹴り返したところで相手に当ててしまったのだ。

 小島は何事もなかったかのようにはね返ったボールをペナルティエリアまで戻ってキャッチし、攻撃を再開させた。その瞬間、見ているこちらは大いに慌てたが、『そうだよな、相手に当たっているボールだからつかめるよな』と、小島の落ち着きに何だかとても感心させられた。

山形-新潟 ゴールを守る小島=NDソフトスタジアム山形

 ゴールキーパー(GK)はときに「守護神」と表される。神にたとえられるポジションというのも、なかなかないが、実際、常人には推し測れない“神々”がサッカーの歴史上、存在してきた。11月にカタールで開催されるワールドカップで日本と対戦するドイツ。その代表、そして世界的名門クラブのバイエルンで長らく君臨してきたオリバー・カーンは、ある試合で総攻撃を仕掛ける最終盤、自分たちのCKに加わった。ここまでは分かるのだが、なぜかゴール前に蹴り込まれたボールをパンチングで突き刺した。もちろん反則で、自身はレッドカードが提示される前にすたすたと退場してしまったという。

 あるいは動画を検索すればすぐに見つかるのだけれど、コロンビア代表で活躍したイギータは来たボールをただ蹴り返すのではなく、スコーピオン(さそり)の呼び名そのものに地面にはいつくばり、えびぞって両足裏でキックしてはファンの喝さいを浴びた。そんな蹴り方をする必然性はまったくないのに。

 元パラグアイ代表のチラベルトは自慢の左足キックを生かし、直接FKからいくつもゴールを挙げてみせた。南米は奇特なGKを輩出する傾向にあるようだ。

 小島はそんなエキセントリックさとは無縁だが、ときにペナルティエリアを飛び出して攻撃に加わる積極的なプレーはとても魅力的で、アルベル前監督(現FC東京監督)、そして松橋監督の下で追求される新潟のスタイルを表現する上で重要な意味を持っている。

 今年のキャンプでの「GKがアシストするくらい攻撃にも関わってほしい」という松橋監督の言葉に、大いに刺激されているという。もちろん、本業であるゴールを守る能力も抜群だ。昇格、そしてJ2優勝に突き進むチームの最後尾のプレーから目が離せない。

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 新潟日報デジタルプラスでは2020年、21年と新潟日報朝刊などでコラム「昇格原稿を書きたいんじゃ」を連載したフリーライターで、長年アルビレックス新潟の取材・情報発信を続ける大中祐二さんの連載コラムを掲載します。

 また「大中’s EYE(アイ)」では、最新の試合を通して、今季快進撃を続ける新潟の強さをひもといてもらいます。

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