
火災で亡くなった猪口孝氏は、新潟市出身の著名な国際政治学者で、2009〜17年には新潟県立大の初代学長を務めた。グローバルな視点と分析力を持ち、人材育成にも力を注いだ。故郷への視線も温かかった。過去の新潟日報に掲載された記事の一部から、その言葉を振り返る。
- 猪口邦子議員宅の火災、死亡の2人は夫の猪口孝さん(新潟市出身、元新潟県立大学長)と長女
- 安否不明の猪口孝さん(元新潟県立大学長)関係者が安否気遣う「まだまだ研究にも意欲」
- 「新潟愛強く」…亡くなった猪口孝さん、篠田昭前新潟市長らから悼む声
※人物の肩書きや年齢などは当時のままです。
地域だけでなく、国際社会で何ができるか
2017年3月・県立大学長退任時
女子短大から四年制大への移行に合わせ、2009年に就任した県立大の猪口孝学長(73)は「故郷の新潟県に役立ちたいと引き受けたが、簡単な道のりではなかった」と8年間を振り返る。
外国語など国際性を高める教育に加え、産業界に役立つ人材育成を目指した。15年には大学院を開設した。「県内だけでなく、県外や海外にも大学の取り組みを発信し、世界中の優秀な学生に選ばれる大学にしたいと考えてきた」と話す。
成果は学生の姿を見て実感したという。「年々、学生の質が高まっている。県外からの学生も増えた」と手応えを語る。
学生たちには「地域貢献という視点も大事だが、学問をする際には人類のため、国際社会のために何ができるかを考えてほしい」と広い視野を持つことの重要性を強調した。

気分と都合の憲法改正、好ましくない
2017年9月・安倍政権の改憲議論について
-安倍晋三首相(自民党総裁)が5月のビデオメッセージで改憲案に言及し、9条などを変えるか否かの議論が加速しています。
「中長期的に改憲の必要性があるとしても、当面は必要ない。そもそも国家の憲法は、敗戦や国内の革命などによる政権変化があった時に制定されることが少なくない。日本国憲法も1928年のパリ不戦条約や45年の国連憲章による国際協調の流れを継承しており、国民にも定着している。世界の情勢が大きく変化し、根本的な考え方が変わった段階で改正すればいい」
-国連平和維持活動(PKO)への協力など日本の国際貢献を求める声もあります。
「第2次世界大戦以降、対外戦争よりは内戦やテロリズムが増えている。国際平和のために自衛隊がPKO活動に積極的に参加し、世界が納得する国際貢献を果たしていくべきだ。このことは国連憲章や憲法の精神にも合致する」
「ただ現状は、PKO活動に派遣しても他国の軍隊に守られている状態だ。憲法解釈で『あれも駄目、これも駄目』と役割を限定するガラパゴス的な考えでは国際社会から孤立してしまう。まずは国民の意識改革を進め、将来的に9条を改正するのも一つの考えだ」
-9条への自衛隊明記の必要性については、どう考えますか。
「安倍首相の提案は、自衛隊が実在する現状を維持するための提案であり、熟考に値するが、本質的には何も変えていないのと同然だ。自衛隊は違憲だとも思わない。むしろ、自衛隊員が死傷した際の憲法上の考え方を明らかにし、名誉を顕彰し、遺族への補償を手厚くするなどの立法化を促すことの方が望まれる」
-安保法制で、専守防衛政策からの転換を懸念する声も高まっています。日本の安全保障体制をどう考えますか。
「日米同盟による米国頼りだ。東アジア情勢が緊迫化する中で、日本は米国などと協調しつつも、自立性を高めないといけない。専守防衛と言っても、それすらできていない。防衛費を格段に上げることは不可能だが、専守防衛に少しでも近づける努力を重ねる必要がある」
-教育無償化や大災害時の緊急事態条項、参院選の「合区」解消も改憲項目に挙げられています。
「憲法は国家の統治形態について高い目標を掲げ、実現に向かう決意を示すもので、教育無償化など国内の具体的な政策路線については、その時々の政府に任せればいい。法律のレベルだ。気分と都合で流されるような憲法改正の努力は好ましくない」...