
「1枚の平面にいろんな情報を詰め込め、見る人がそこから想像を膨らませることができるのが写真の魅力」と語る長沢慎一郎さん
分厚い扉の奥にある、空っぽの倉庫。銅の壁面に浮いた緑青や電線に付着した水滴を捉えた写真が、油絵のような重厚な質感で迫ってくる。写真家長沢慎一郎さんのカメラは目に見えない時間の蓄積を写し出す。
「場所の持つ記憶を意識した」。東京・小笠原諸島の父島に残る、旧日本軍の壕に造られた倉庫を撮影した写真集「Mary Had a Little Lamb」で第49回木村伊兵衛写真賞を受賞した。
終戦後23年に及んだ米軍の占領中の一時期、倉庫には核弾頭が保管され、童謡の一節にちなんで「メリーさんの羊」と名付けられていたという。「『リトルボーイ』と呼ばれた広島の原爆のように、無邪気な名前の裏には何かが潜んでいる...
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