誰かが体験した恐ろしい出来事や奇妙な話を語る―。夏の風物詩でもある怪談話は、SNSや動画配信サイトなど、さまざまなメディアで楽しめるちょっとしたカルチャーだ。うだるような暑さが連日続く今夏、せっかくなら恐怖体験を生で聞いて"涼”を感じたい。県内の怪談師たちによるライブイベントへ足を運んでみた。

 夏のある夜、新潟市中央区西堀通7の宗現寺は、大勢の人でにぎわった。ろうそくの明かりだけが怪しく光る薄暗い本堂で開かれていたのは、長岡市の市民団体「新潟オカルトGATE」による怪談イベント「怪談ゲンジナイト」だ。汗が体にまとわりつく、じめついた暑さの中、訪れた人たちは怪談師が持ち寄った話に耳を傾けていた。

「血染めの着物」(怪談師・石動充徳さん)

 この話は新潟県の中越地方に住むある熟年夫婦の話です。ご夫婦の長年住み続けた家はずいぶん古かった。加えて、一人娘が結婚し、夫婦2人で住むには家が少し広すぎる。豪雪地帯なので、家が広いとそのぶん除雪も大変なんです。そんなことで、近所に2人で住むにはちょうど良い空き物件があった。そこを買い取ってリフォームして、そっちに引っ越そうという話になった。家の片付けしていると、物置から古い桐箪笥(きりだんす)が出てきたんです。

 「おお、懐かしい」。それはご主人のお母さんの花嫁道具だった。ご主人は思い入れがある。だけど、次の家は狭くて持っていけない。「このタンスを処分するか」という話になって、中を確認してみると、引き出しから紙に包まれた着物が入っていた。包みをほどいてみると、きれいな赤い生地に、色とりどりの模様が付してある素人目に見ても上等な着物だった。「おふくろ、こんなの持っていたのか」。畳まれていた着物を広げたら「うえー」となった。

 着物の胸からおなかにかけて、どす黒い染みがべっとりついている。「おいおい、これ血じゃないか。気持ち悪い。これも処分だよ」。たたんで包みに戻し、もう捨てるからと、タンスには入れず、物置にそのまま置いておいた。

 その日の夜、ご主人は近所の人と飲みに出て、真夜中に帰宅した。玄関を開け、靴を脱ごうとするが千鳥足で立って歩けない。玄関に腰をおろし、靴を脱いでいた。この家は、玄関を入ってすぐに2階に上がる階段があるつくり。2階の階段の奥には夫婦の寝室がある。奥さんはもうすでに就寝している。ご主人は靴を脱いで、酔っぱらって、そのまま廊下にゴロンとひっくり返ってしまった。

 すると、階段が頭の上にある状態になるのだが、目線が階段の一番上にいくと…。階段の一番上に髪の長い女が立っている。しかもその女、昼間に見つけたどす黒い血の付いた着物を羽織っている。

 「ええっ」

 次の瞬間、女はご主人をものすごい形相でにらんだ。そのにらんだ顔だけが近づいてきて。「うわー」。慌てて1階のリビングに逃げ込んだ。

 「おい、なんだ。一体なんなんだ、あの女」

 一目散に奥さんのもとに逃げたいが、奥さんは2階にいる。

 「ムリムリ、行けない」

 恐怖に震えながら一晩、リビングで過ごした。朝方、さすがに眠くなり、ソファに横になって寝てしまった。

 「ちょっと、あんた。こんなところで横になって寝て、ダメじゃない」。朝、奥さんに起こされた。

 「昨日の夜な…」と昨晩の出来事を話したそうだ。さすがに奥さんも「なにそれ?あの着物って呪われた着物なの?今までそんなの出たことないじゃない」。タンスから出したことでそういうことになったということは「あのタンスに着物を戻した方がいいのかな」という話になり、着物をタンスに戻して引き出しを閉めた。

 それ以降、その女は全く出なくなった。結局このタンスと着物を捨てられなくなってしまい、新しい住居にやむなく持っていった。そのタンスと着物はいまだにその家にあるという…。

※諸事情により内容の一部が事実と異なります

「野辺送り」(怪談師・猫屋敷つばめさん)...

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