
韓国・済州島の象徴、トルハルバン(石のおじいさん)のそばに立つ羅衍禹。初めて像を見たとき、島人はこの像に向かって祈り、イスラム教で禁じられた偶像崇拝をするのだと思ったという=2025年5月(撮影・坂野一郎、共同)
「名前は? 故郷はどこですか?」。アラビア語で尋ねようとしたが言葉が出てこない。日本の九州から程近い韓国南部・済州島(チェジュド)。7年前、島に突然やってきた多数のイエメン難民を前に、羅衍禹(ラ・ヨンウ)(32)は忘れかけていた母語を絞り出した。もう使うことがないと誓っていた母語が、遠い極東の島で求められた。それができるのは難民の自分だけと、当局との間の通訳に名乗り出た。
▽ひとりぼっち
羅はシリア北部アレッポに1993年、「アハマド」の名前でイスラム教徒として生まれた。学生だった2011年、シリアに波及した民主化運動「アラブの春」で反独裁政権のデモに参加。デモは40万人以上が死亡する内戦に...
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