
プロダイバーの高島篤志。心臓にペースメーカーを付け、がんと闘いながら、夢を持って海に潜り続ける=2025年5月、佐賀県唐津市(撮影・藤井保政)
沖縄県・慶良間諸島の海にかつて遊んだ。流れが速く、外洋から魚が回遊する場所で透明度は高い。降りるよとガイドに伝え「ドロップオフ」と呼ばれる、ほぼ垂直の崖に沿って1人で潜り始める。水圧でウエットスーツが縮んで浮力を失い、深みへと落ちていく。プロダイバー、高島篤志(たかしま・あつし)(78)が最も好きな瞬間だ。
ジャケットの浮力を調節し加速を抑え、10秒ほどで水深58メートルの岩場に着く。圧力は約7気圧。水の抵抗で動きは鈍る。だが体への重み、水温の変化は感じない。魚はほとんどいない。見上げると一面の青。太陽が白く輝く。同行のダイバーたちが手を振る。5分後、浮上を始める。体内に溶け込んだ窒素が気泡...
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