家族以外とほとんど関係を持たない「ひきこもり」状態の人が全国で115万人以上いるとされ、社会問題化している。政府は今国会で孤独・孤立対策を推進する法案を提出する方針だ。ひきこもりは実態がつかみにくい。当事者の多くは、社会とつながりたいという意思を持っているものの、適切な支援が十分届いていないのが現状だ。新潟県内の当事者に話を聞き、支援を模索する県内外の動きを追った。(4回連載の2回目)
115万人-。全国にいる15〜64歳のひきこもり状態の人数とされる。ただ、これは内閣府が2015年と18年に行った抽出調査による推計値だ。実数はどうなのか。東京都江戸川区は21、22年に、18万世帯を対象にした大規模な調査を行った。
19年に行った簡易的な調査では、ひきこもり状態の人が681人だった。国の推計値に基づく発現率1・5%を区民70万人に当てはめると約1万人で、大きくかけ離れていた。

江戸川区は実態を知ろうと、区内の全35万世帯のうち15歳以上で(1)給与所得で課税されていない人(2)介護・障害など行政サービスを利用していない人がいる18万世帯に調査書を郵送。返送がなかった世帯には訪問して促した。区長は区職員時代にひきこもりの問題に触れており、肝いりの事業だった。
約10万3600世帯から回答があり、ひきこもり状態の人が7919人いることが分かった。14歳以下の不登校人数などを加えると約9千人になった。調査書に整理番号を付けたことで、支援のニーズを捉えることができたという。
ひきこもりの調査を巡っては、当事者に「引き出されるかもしれない恐怖感を与える」と懸念する声がある。江戸川区でも「ひきこもり調査」とストレートに表現したことに対し、苦情が寄せられた。
だが、ひきこもり施策係の森澤昌代係長(48)は「調査をしないことは、社会とのつながるきっかけを狭めること」と強調。苦情には「一人一人の生き方にあった支援を考えていく」と説明したという。
国は市町村に支援対象者の実態把握を求めている。新潟県によると22年4月1日現在、抽出調査や福祉関係者らへの聞き取り調査を行った自治体は、新潟市など17市町村にとどまる。
ひきこもり支援に取り組むNPO法人「新潟ねっと」の村山賢さん(48)=新潟市西区=は数字を知ることで「支援者がリアリティーを感じ、本気度が上がる」とし、調査の必要性を訴えてきた。

村上市で行われたひきこもり支援研修会。村山賢さん(左)らがアドバイスした=2021年10月
村山さんは西区で社会福祉協議会などと連携して調査し、約1250世帯に当事者がいるという推計値を出した。村上市では民生委員らによる調査結果が出ており、結果を基に、相談支援のアドバイスを行った。
西区、村上市の調査とも、調査を通して地域の社会資源を生かす支援態勢が見えてきたという。支援態勢をつくる過程で、専門職同士の連携が強まる。「困窮や障害などひきこもり以外のテーマにも対応できるチームになれる」と語る。
高齢の親と当事者が共に困窮する「8050問題」への取り組みも始まっている。新潟市南区の地域包括支援センターしろね南はケアマネジャーに対し、支援している高齢者の子がひきこもりになっている世帯数を尋ねるアンケートをした。
企画した南区社協の秋山詩織(47)さんは「ケアマネが関わるひきこもりのケースでは、親が亡くなった時にすぐ孤独死の危険性が高まる」と指摘。介護終了後も切れ目ない支援の仕組みを探っていく。
(3回目はフリースクールを運営する男性の経験から、ひきこもり状態にある人への支援について考えます)
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◇ひきこもりに関する公的な電話相談窓口(相談料は無料。通常の電話代がかかります)
新潟県ひきこもり相談ダイヤル 025(284)1001(月〜金曜、午前8時30分〜午後5時。祝日、年末年始除く)。
新潟市に在住の方 新潟市ひきこもり相談支援センター 025(278)8585(火〜土曜、午前9時〜午後6時、祝日・年末年始除く)。