2023年度予算案は28日、与党などの賛成多数で可決、成立し、通常国会は後半へ折り返す。これまでの論戦はすれ違いが多く、首相の説明不足も目立つ。
後半国会は重要法案の審議が焦点となる。政府は疑問を解消する説明を心がけ、与野党は改めて議論を深めてもらいたい。
23年度予算は一般会計の歳出総額が114兆円を超え、過去最大規模となった。ポイントは、過去最大の6兆8千億円超となった防衛費を巡る問題だ。
政府は、他国領域のミサイル基地などを破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の行使に用いる米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得に2113億円を計上した。
国会論戦では400発の取得を明らかにし、岸田文雄首相は反撃能力について、米軍に依存してきた打撃力の一部を日本が担うとの考えも表明した。
自衛隊の役割が「盾」から「矛」へ変容する可能性を認めるものだ。専守防衛の理念が形骸化する危うさを露呈したといえる。
一方で首相は、反撃能力を「ミサイル攻撃から国民を守る『盾』の能力だ」とも強調し、矛盾する印象を残した。
反撃能力を実行するケースについては「手の内を明かすことになり控える」とし、はっきり答えようとしなかった。
これでは、国際法が禁じる先制攻撃に当たるといった疑念を払拭することはできない。
今後5年間で43兆円に増額する防衛費の財源が示されないことも、議論の深まりを妨げた。
後半国会ではこうした点が改めて追及されねばならない。
残念なのは、放送法の「政治的公平」の解釈について、安倍政権下で事実上変更した経緯に関する総務省の行政文書を、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相が「捏造(ねつぞう)」と発言し、その混乱が尾を引いていることだ。
参院予算委員会では、質問権を否定するような答弁を委員長に注意され、撤回する場面もあった。
野党は追及姿勢を強めたが、高市氏の答弁に振り回され、解釈変更と官邸の関わりといった問題の本質は明確にならなかった。
高市氏は28日の予算委でも文書を「怪文書の類いだ」と突っぱね、担当局長から自身へのレクも重ねて否定した。それならば高市氏は、解釈変更の答弁に至る経緯を自ら明らかにするべきだ。
後半国会では、原発の60年超運転を可能にする関連法改正案や、予算倍増方針の少子化対策などが論戦の柱となるだろう。
ウクライナ電撃訪問や日韓関係改善が好感し、内閣支持率には追い風が吹くが、国民に関わりが深い政策に対する説明不足が続けばまた逆風になる。
首相はそう自覚し、今後は明確な説明に努めてもらいたい。