長年にわたる佐渡の取り組みの成果である。本州の空へと放つことができるのは喜ばしい。環境共生のシンボルとして羽ばたいてもらいたい。
環境省がこれまで佐渡市のみで行ってきたトキの放鳥が、2026年度から本州中心に行われることになった。
島内では、急減した場合など生息状況に応じての放鳥に改める。トキ野生復帰検討会で方針案が了承された。
佐渡島の野生下には現在、推定で576羽が生息しており、検討会は、個体数がある程度安定的に増えてきていると評価した。
この状況を踏まえ、26~30年度の次期行程の案を示し、佐渡での目標として「数を増やすという段階ではなく、(遺伝的多様性を維持しながら)存続していくという方向に変更」することにした。
08年からの放鳥が新たな段階に進むことになる。野生定着への大きな一歩である。
限られた空間に生息できる個体数には限りがある。これまでは島の中心部に集中してしまい、過密化などによる繁殖率の低下も問題となっていた。
感染症対策の観点からも生息地を分散させることが肝心だ。本州の野生下にも広げることで、トキの安定的な繁殖を進めたい。
本州での第1弾として来年、石川県羽咋(はくい)市の南潟地区での放鳥が予定される。石川県に本格的に舞い戻るのは56年ぶりとなる。能登半島地震からの復興の後押しとなることを期待したい。
翼を本州へと広げる意義は大きい。さまざまな教訓を背負っているからだ。
日本産が生息地を追われ、絶滅したのは、乱獲だけが理由ではない。自然環境を顧みない経済成長も背景にあった。
その復活に向け、餌や生息環境を考える中で、佐渡の人々は生物多様性の大切さや農業のあり方に目を向けてきた。
本州で放たれれば、豊かな自然を保全できているか、各地に問いかける存在になるのだろう。環境意識の拡大につながるはずだ。
繁殖協力を通し、日中友好の架け橋となってきたトキは、今後も飛来する先々と佐渡の人々を結んでくれるに違いない。
近づきすぎてはいけないトキとどう付き合うべきか。佐渡のこれまでの試行錯誤を各地に伝えていかねばならない。
江戸時代は日本全国の空にいたとされる。どこにでもいる普通の鳥になることが理想である。