付きまといの危険性をなぜ軽視してしまったのか。検証すべきは、軽視に至る背景だ。警察組織全体の意識を正すべく、さらなる検証を求めたい。

 神奈川県警は、元交際相手からのストーカー被害を訴えていた川崎市の女性が殺害され、4月に遺体が見つかった事件の対応を巡る内部検証結果を公表した。

 被害を示す情報がある中、危険性や切迫性を過小評価し、安全確保措置や必要な捜査態勢を取れなかったと認定した。

 相談を受けた警察署や県警本部の体制が形骸化していたことや、署と県警本部などとの連携が適切でなかったことも挙げた。

 なぜ被害者の訴えをしっかり受け止めず過小評価したのか、どうして組織内の連携が取れなかったのか。その理由が見えてこない。検証と呼ぶには不十分である。

 相談者らが発するSOSをないがしろにすることなく、犯罪を未然に防ぐことが、過去の事件を教訓としたストーカー規制法の趣旨であるはずだ。

 警察は、川崎市の女性からの通報を受け、事情聴取や口頭指導を行ったが、被害届の取り下げや復縁の申し立てなどを受け、対応を終了した。

 その後に女性が「(被告が)自宅付近をうろついている」など9回連絡したが、署は県警本部に速報するなどの対応を怠った。

 行方不明になった後、親族が「家の窓ガラスが割れている」と通報しても、臨場した署員は窓を目視で確認しただけだった。

 必要な措置を講じる機会をことごとく逸していたといえる。被害者の父親は検証を受け、「(警官の)人間性が変わらなければ同じことが繰り返される」と話した。重く受け止めねばならない。

 交際相手からのドメスティックバイオレンス(DV)の事案は、重大事件に発展するリスクが高いともいわれている。

 DV被害者は、被害届を提出しなかったり、出しても取り下げたりするなど、恐怖から逃れるために意思が揺れることがある。

 そうした心理を理解した対応が警察には求められる。

 ストーカー規制法の改正も必要だ。加害者に行為をやめさせるための「警告」は、被害者の申し出が必要だが、警察の職権で出せるような検討が急がれる。

 警察へのストーカー事案の相談は近年、2万件前後の高い水準が続いている。神奈川県警だけでなく、全国の警察で危機感を共有してもらいたい。

 警察の機能不全は、大川原化工機を巡る冤罪(えんざい)事件でも浮かび上がった。8月に公表された検証では、内部の意思疎通の悪さが冤罪を生んだ一因とされた。川崎の事件とも共通する課題だ。

 風通しが悪くないか。警察全体で点検してもらいたい。