
地域活性化と人口減少の食い止めを目指し、安倍晋三首相(当時)が「地方創生」を打ち出して2024年で10年。くしくも初代の地方創生担当大臣だった石破茂氏が首相に就いた。政府が目標に掲げた雇用や人口増、出産・子育て環境の整備は進んだのか。東京一極集中から脱却する施策に効果はあったか。石破政権下で行われる衆議院選挙(衆院選)を前に、新潟県の地方創生の現在地を探った。(3回続きの1)
田園が広がる農地の一角に、しゃれた建物が姿を現す。新潟市北区のイタリアンレストラン「ラ・トラットリア エストルト」は国家戦略特区国が地域や分野を限定して、ビジネスの障壁となる法律などの規制を緩和し、産業の国際競争力強化を目指す制度。新潟市は2014年5月に「大規模農業の改革拠点」として指定された。このほか、国際ビジネス、医療、観光などの分野で全国13区域が指定されている。各区域で成果を上げた事業は全国展開が可能となっている。を活用した農家レストランだ。女性客を中心に年間3万人以上が訪れるなど、人気を博している。
国家戦略特区は2014年に始まり、国の地方創生政策の足がかりとして注目を集めた。新潟市は農業分野で1次指定を受け、全国6区域の一つに名を連ねた。規制緩和で農用地を活用した「農家レストラン」など革新的な取り組みは全国に展開。新たな雇用も生み、一定の成果はあったが、新潟県全体への波及効果は限定的だ。
「採れたての野菜をその場で食べる『産地直食』が売り。特にフルーツトマトを使ったサラダは評判がいい」。店を営む農業生産法人、髙儀農場の髙橋治儀会長(70)は胸を張る。のどかな田園風景を眺めながら食事ができるロケーションの良さも受け、開店から8年で農場全体の売り上げの半分以上を占めるまでに成長した。
石破茂首相は地方創生担当相だった2016年、視察で来店。料理を堪能した後「東京の銀座で3万円のイタリアンを食べるより、新幹線で来て食べた方が断然いい」と絶賛し、農家レストランの取り組みに満足していたという。

▽国が補助も…
しかし、国家戦略特区を活用したレストランは新潟市内で他に3店が開業したものの、後に続く動きはなく、広がりを欠く。道路の拡張や消火設備など多額の初期投資が壁となっているからだ。髙橋会長は「...