人口減少が農業や観光、医療福祉にも影を落とす地域に、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけています。衆院選を迎えて展開する、地域の実情や住民の思いを伝える連載「知ってほしい」。今回のテーマは「高い自殺率」。
新発田市に事務局を置く「新潟いのちの電話」後援会下越支部は、下越地方の市外局番0254で始まる独自の電話番号を設けている。悩みを抱えた相談者がこの番号に電話すると、24時間365日対応する新潟市の相談員に転送される仕組みだ。
新潟いのちの電話は2020年だけで約1万7千件の電話相談を受け、自殺防止に大きな役割を果たす。ただ、「新潟市の番号では距離を感じる人もいる」と下越支部長の神田敬一さん(58)。新発田からの電話の転送は多い月で140件近くに上る。「思い詰めた人が少しでも電話しやすいように」との思いが込められている。
県内では20年の人口10万人当たりの自殺者数(自殺率)が暫定で18・9。全国で7番目に高かった。行政など関係機関によってさまざまな対策が行われ、自殺率は長期的に低下傾向にあるが、全国的には高い水準が続いている。
特に下越地方は県内でも自殺率が高いと言われる。県によると、19年まで10年間の県内保健所管内別の自殺率は村上が29・6、新発田が24・8。いずれも県全体の23・3を上回った。自殺リスクを高める高齢化の進行が一因とみられる。
下越地方で自殺者を減らそうと、地元の企業経営者らが08年に結成したのが下越支部だ。ラジオやテレビ番組に出演するなどして相談員の募集を図るなど、いのちの電話として長年の課題となっている相談員の確保にも協力してきた。
神田さんには苦い記憶がある。下越支部の設立前、家族ぐるみの付き合いがあった知人の息子が自殺したのだ。亡くなったのは当時30代の会社員。自殺の理由は分からない。神田さんは通夜で、憔悴(しょうすい)した知人らの姿に大きなショックを受けた。
その知人は神田さんに語った。「亡くなった翌朝に息子が夢に出てきた。『なんで俺より早く死んだのか』と言ったら、息子はにこっと笑って消えてしまった」。身近に起こりうる、こうした悲劇を一つでも減らしたい。その思いが下越支部の活動につながっている。
自殺問題には健康、経済、人間関係などさまざまな要素が絡み合う。神田さんは自力では、支部で行う相談窓口の周知活動や命の大切さを中学生に伝える講演会など「地道に活動するしかない」と考える。
一方、政治には地元企業の経営支援や雇用の確保などできることがあると感じている。神田さんは「弱っている人を手厚く守り、将来に希望が持てる社会にしてほしい」と願う。
10月中旬、新潟市のとある建物の一室。「そうですよね」「そんなことされたら困りますよね」。相談員が受話器越しにささやく。思い悩む相談者に寄り添うように、じっくりと耳を傾ける。電話がならない日は一日たりともない。
(新発田総局・林圭亮)
◎交流の活発化が対策の一つ
神田敬一さんの話 一番は相談窓口があると知ってもらいたい。一人で悩まないでほしい。下越地方は高速道路など交通網の整備が遅れている。人の交流や経済を活発にすることも自殺対策の一つだと思う。
※新潟いのちの電話・新発田の番号は0254(20)4343