政治の力への期待を込めて、新潟県内各地域の実情や住民の思いを伝える衆院選連載「知ってほしい」。今回のテーマは「在宅介護」です。
新発田市金谷の介護老人保健施設「いいでの里」でケアマネジャーとして勤める清野陽子さん(41)は、難病患者と接し、介護態勢を調整する中で、地方と都市部での環境の格差を痛感している。一番の課題は、人員不足による在宅医療を支える介護事業所の少なさだ。
清野さんが担当し、体が徐々に動かせなくなる「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を抱える新発田市の患者は数年前、誤飲による肺炎などを防ぐため、気管と食道を分ける「喉頭気管分離術」の手術を検討した。生きるための選択だったが、患者は「病院で暮らすことになるなら手術は受けたくない」と希望したため、清野さんは、手術後も自宅で生活できるように、介護態勢の構築に乗り出した。
難病などで在宅医療を希望する場合、ヘルパーが患者宅で生活支援や介護を行う「重度訪問介護」制度がある。重度の肢体不自由者や知的障害、精神障害がある患者が利用する。ただ、重度訪問介護ができる新発田市内の事業所は2事業所のみで、利用できている患者は3人だけだ。ヘルパーが長時間勤務になり、たんの吸引など医療的な技術も必要で、人材の確保が難しいという。
清野さんは制度の利用に向け、まず市の担当課を訪れたが、「ヘルパーを確保しないと重度訪問介護制度は使えない」との回答だった。清野さんは重度訪問介護に登録している市内外の事業所に片っ端から問い合わせたが、ヘルパーの不足を理由に断られた。
新潟市で重度訪問介護に登録している事業所は114事業所。清野さんは「新発田市内だけでは対応できず、新潟市の事業所に頼らざるを得ない」と、地域格差を感じた。
ようやく事業所からヘルパーを派遣してもらうところまでこぎ着け、ほぼ一日中在宅で介護をできるようになった途端に、依頼していた2事業所のうち1事業所が重度訪問介護事業から撤退した。再び事業所探しに奔走し、現在は夜間のみ新潟市の重度訪問介護を使用。日中は訪問介護と訪問看護を組み合わせ、患者は自宅での生活を続けている。自らが雇用主となってヘルパーを雇い、行政の支援を受けずに対応している患者もいるという。
県立病院で難病患者の往診が対応できるようになったり、進行を遅らせる薬が開発されたりと医療は進歩した。しかし、介護態勢は整わず「福祉が置いてきぼりになっている」と感じる。福祉と医療の足並みをそろえるためにも「人員不足が一番の課題。介護職の給与や勤務環境などの待遇改善に本腰を入れてほしい」と望む。山積みの課題を前に手探りが続く。
清野さんは「体が徐々に動かせなくなり、ALSは、現在の医学ではできなくなることが増えていくだけの病気。治療ではなく、どう生きるかを考えるのも福祉」と力を込める。「誰もが自分の生き方を自分で決められる社会になってほしい」
(新発田総局・高橋瑞葵)
◎福祉向上に取り組んで
清野陽子さんの話 高齢社会を迎え、福祉業界の人材不足は、難病患者だけの問題ではなくなっています。在宅で治療を受けられるほど進歩した医療に福祉が置いていかれないように、政府にはもっと、在宅医療で暮らしている患者と支えなければならない家族の現状を知ってほしいです。