
佐渡市の活性化を目指し、約20年前に始まった県内唯一の「海洋深層水」に転機が訪れている。市は財政事情を理由に、2026年度に利活用施設(佐渡市多田)の一部を無償譲渡する方針を打ち出した。既に公募を始めたが、引受先がなかった場合は「廃止の可能性もある」としている。深層水を利用した商品を販売する島内事業者には、先行きを不安視する声もある。
海洋深層水は、太陽の光が届かない水深200メートル以上のエリアにあり、水温は年間を通じて低く一定。菌の繁殖を抑えることができ、ミネラルを豊富に含む。海洋深層水利用学会によると、1989年に高知県室戸市に国内初の取水施設ができ、現在は全国15カ所にある。
佐渡の利活用施設は、合併前の旧畑野町が事業費約20億円で建設し、2004年度に稼働した。水深332メートルの海洋深層水をくみ上げる「取水」「分水」「製氷」、魚介類をいけすで一定期間育てる「水産」の四つで構成されている。
今回市が譲渡の対象としたのは、原水を滅菌、加工処理する分水施設。用途に応じて原水を淡水化したり塩分を濃縮したりと、商品作りや一般利用には不可欠だ。市は赤字補填してきたが、「民間主導による販売強化やコストカットで自立は可能」と強調する。
 
24年度には大口で30社が飲料や製塩、宿泊施設の入浴用などに使用。小口でも市民ら87人が炊飯用などに購入している。水産施設は分水施設を通さず原水を引き入れており、譲渡に伴う影響はない。
分水施設の譲渡の動きに、地元生産者の戸惑いは大きい。海洋深層水から塩を作る菊池商店(松ケ崎)の菊池高根さん(62)は「海洋深層水の名前で売り出し、人気を集めている。一定程度の値上がりはやむを得ないので、続ける人が出てほしい」と願った。
08年度から分水施設の指定管理者である「新潟県佐渡海洋深層水」(多田)は、年間2000万円超の指定管理料と収入400万円は、人件費や機器のメンテナンス、電気代で消え、年100万円ほどの赤字が続く。パイプラインでつながる自社工場のミネラルウオーター販売で、何とかやり繰りしている状態だ。
 
ミネラルウオーターは、佐渡市出身の動画クリエイター「けえ【島育ち】」さんの紹介で知名度が上がった。土田一彦常務(60)は「分水施設がなくなれば、飲料水が作れなくなるので非常に困る。ただ、機器のメンテナンスに高額なコストがかかるのは課題だ」と話し、自社が公募に応じるかは「検討中」とした。
市地域産業振興課によると、...
 
    






















