
アルビレックス新潟レディースの橋川和晃監督は5月28日、新潟県聖籠町の新潟聖籠スポーツセンターで今季の戦いを総括する会見を開いた。就任1年目でWEリーグカップ準優勝と、リーグ戦過去最高の4位へ導いた。「紙一重の試合を勝ち切れるチームになった」と充実した1年を振り返った。
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リーグ戦の戦績は、13勝2分け7敗で勝ち点41。1点差で競り勝つことが多く、目標の勝ち点40を上回り「選手が積み上げたことを誇りに思う」と語る。総失点は18と、少なさは3位タイ。3強を占める三菱重工浦和などと肩を並べ「堅守は確立できた」とうなずく。
一方、3位以上を目指し、途中で目標をタイトルへ格上げしたが、「4位に終わったのは本当に悔しい」。得点力などを課題として挙げた。
リーグ戦のホームでは、11試合中8勝と抜群の強さを誇った。平均来場者数も1762人と過去最多だ。サポーターには「背中を押してもらい、紙一重の試合に勝てた」と感謝。来季の去就は明言を避けたが「思いは『新潟にタイトルを』。目標があるから頑張れるような目標設定をしたい」と語った。
詳しい会見の内容は以下の通り。
橋川和晃監督の今季総括会見 冒頭あいさつ
就任前の意味ある2シーズン トップ3目指す土台に
まず今シーズン始めるに当たって、選手たちには「本記でトップ3を目指さないか」という問いかけからスタートしました。選手たちは目をキラキラと輝かせて、やりたいという純粋な気持ちで、うなずいてくれました。おそらく2年間苦しいシーズンを過ごした。ただ、その2年間も何もなく過ごしたのではなくて、村松(大介)前監督の下で基盤を築いた、意味のある2年間だったと思うんですね。私が来た中でトップ3を目指す土台はできたと、その2年間で作り上げてくれたと思っていました。
私の場合は戦術的なことより、サッカーの当たり前のことを原則に、例えば、サッカーはゴールを奪う、ゴールを守るスポーツ。そのためにはボールを前に運ばないといけないし、相手の前進を許さないようにする。そういう原則、本質のところからいろんなものを培ってきました。
もう一つはフィロソフィー、6つあるんですけど、「エンジョイ」サッカーの楽しみ、自分でリスクを冒して勝負していく。「アワーチーム」忠誠心ではなく、チームが勝つために選手一人一人ができることを考える。自分のチームになるからこそ、このチームを愛せる。「ドゥーユアベスト」ベストを尽くす。「コンセントレーション」今起こっていることに集中し、考える。「インプルーブ」そういう中で成長が訪れ、「コミュニケーション」ただ仲が良いだけじゃなく、勝負において仲間を信頼する。こいつとはウマが合わないけどこいつにパスを出せば大丈夫だと、そういう信頼関係に持っていく。
プレーモデル(原則)に基づいてサッカーすること、フィロソフィーをもとに考え方を高めていくこと、これが2つの車輪のように、選手たちが実践してくれたと思います。
「アリの一歩」積み重ね 山を本気で登ったからこそ見えたもの
残念ながら4位に終わったことには、本当に悔しいなっていうところです。ただ1点差勝ちが9試合、1点差負けが4試合、紙一重の試合をやってくれて、勝ちきれるチームになってくれた。結局13勝2分け7敗、引き分けが少ないのは逆に紙一重を勝ちに持って行ってくれたから。ただ、この引き分けを勝ちに持っていき、負けた7試合を引き分けにしたい。選手たちにはアリの一歩を続けていこうねという話をします。優勝は遠いところだけど、勝ち点1をしっかり積み上げる。アリの一歩が振り返ると大きな一歩になっている。それも選手たちがしっかり実践してくれて勝ち点41まで積み上げてくれたことは誇りに思うし、すごいことをやったと思ってます。
ただ、足りないところは足りない。それはタイトルへ、トップ3へと山を登ったからこそ分かったこともあったと思うんですね。目標を達成できればそれが一番なんですけど、山を登ったときに見えるもの、残念ながら7合目か8合目かで、そこから先は見れなかったんですけど、今まででかい、美しいと思っていた山を本気で登ってみたら、険しくて大変な山だった。本人たちが一番分かったと思う。ただ一度登った山なんで、今度はふもとからのスタート。ふもとでこけることもあるかもしれないんですけれど、もう一度その山を登れる準備っていうか気概はある。今度はこういう風に登ってやるぞっていうのは、どの選手も持っていると思ってます。それが最後のマイナビ仙台戦に現れたかなと。いろんな課題がある中で、しっかりこう詰めていこうねっていうところをやってた中で、最後の試合は取り組んできた「柔攻」で柔らかく攻めるっていうところも、ようやくっていう手応えを感じて終わったシーズンだったと思います。
繰り返しになりますけど、本当に選手が自覚を持っている。うちの選手は経験豊かな選手、中堅の選手、若手の選手っていう風にすごく、経験値や年齢のバランスもそうですし、性格的な人間性のバランスもすごい良いチームだなと思っています。そのチームたちが一つの目標に向かってアリの一歩をしっかり続けて、みんなで山を登っていったシーズンだったなっていうのが、総括としてまとめたいと思います。

報道陣との質疑
緻密につくり上げる楽しさ そして、試合後のお菓子
ー初めて女子サッカーの世界で1年やってみて、率直な感想は?
いろんな集団を私も扱ってきたわけですよね。いろんな組織のマネージャーとしてマネージメントで、まあ、何も変わりはないなって。組織にはいろんな個性があって、私が新潟で今シーズンのチームを扱ったときには、その組織の個性があり、そこに存在する一人一人の選手の個性があって、そういう選手たちとコミュニケーションを取りながら良さを引き出し、課題を一緒に克服していく。そういった意味でのマネージメントは何も変わらないなって、率直に思いました。
ただ、サッカー的にはやはりパワーやスピードがない分、キックのレンジが当然短いので、その分、一気にボンと蹴ってサッカーが終わらずに、やっぱりより細かいところでサッカーを組み立てるっていう逆の面白さがある。バンと蹴ってドーンじゃなくて、細かくサッカーを緻密につくり上げる楽しさもあるし、難しさもあるし。守備のところも68メートル(ピッチの幅)をスライドするっていうことが男子だと当たり前。走力の問題です。ただ、女子の選手たちも判断力を高めてあげると、それができるかなっていうこともすごく思いました。
あと一番違うのは、試合が終わった後にお菓子がいっぱい出てくるっていう(笑)お土産があるっていうそれくらいです。お菓子が周りにいっぱいあるっていう。そこが違うくらいです。

ー男子と女子で選手として扱う難しさは違う?
あんまり私は感じなかったですね。やっぱりでも何だろうな。要は集団の個性って結構あるんですよ。一人一人の個性もあるんですよね。その個性をどう捉えてアプローチするかっていうだけで大丈夫ですね。声掛けの仕方とかは変えますけども。例えば18歳の男の子を見ててもやっぱ違うし、トップチームで30歳、例えば駒野(友一。元日本代表、元今治)を扱うのと若手の高校生扱うのとは全然違うので。
攻撃はプラス1点ずつを 堅守はトップ3に匹敵
ートップ3との差はどこに感じるか?
やはり、トップ3のチームは途中でミスを起こさない。組み立てのところで、こっちが多少プレッシャーかけたら中位か下位のチームはミスをしてくれる。それをやっぱり上位のチームはミスをしない。皇后杯の準々決勝(INAC神戸戦)かな。あれは完敗でしたって言いましたけど、やっぱり我々の守備のインテンシティーが低くて、INACは全然ミスをしない。あそこでやられて完敗だった。チームとしてやろうとしてることは悪くないけど、相手のクオリティに対してこっちの守備のクオリティがちょっとでも減ると、やられるなっていう。

我々のチームの課題というと得点力っていうところ。他のところ(トップ3)が40点くらい取ってるんですね。それは取りすぎっちゃ取りすぎなんですけど、やっぱり我々が今季26得点で、当初取りたかったのは36点。1試合で1・8点くらい、40点くらい取れるようなチームにしていかないといけない。今の選手たちに失礼かもしれないけど、代表クラスのスーパースターはうちのチームにはいないので、清家さん(貴子・三菱重工浦和)みたいに20点取る選手とかいないので。我々は一人一人が、出てる選手が1点ずつ取ればプラス10点なんですよね。今年取った得点のプラス1点を一人ずつ取れば10点になるんですよ。それをしっかり実践をしていくっていうことが私と選手ができること。GMは他にできることがあるかもしれないですけど、そういったところをしっかり積み上げていくということです。
逆に言うと、今季失点は18で、INACさんが一番低くて12だけど、他の上位チームとは変わらない。守備のところに関してはある程度しっかり、自分たちがトップ3と一緒くらいの失点で抑えられたと思います。
「あってないような」のが自分たちのサッカー 選手の自主性生かす
ーチームが一番成長した部分は?
総合的なものになってくるんですけど、やっぱり堅守は確立できたかなって思います。自立した選手、自立したチームを作りたいというところはしっかりできたし、フィロソフィーをもとに考え方を高めていくっていうところなんかは一つ一つですけれどもやっぱり良くなったことで、やっぱり紙一重の試合を取れたと思います。やっぱり勝つことによって良い循環が生まれてきてくるっていうのも事実なんで、しっかり、そういったところで最後のゲーム、やっぱり最後は目指してた攻撃の柔攻、柔らかく攻めるっていうのができて勝てたっていうのは大きかったですね。杉田が言ってたんですけど「自分たちがあってないようなものっていうのが自分たちのサッカー」だと思ってるんですよ。状況に応じてサッカーをできるっていうところです。そういったことができるようになってきたかな。

ー今季指揮を取る上で最も大切にしてきたことは?
選手が主役だと思ってるので、本当に選手がやっぱり自立して選手たちが動けるように。こっちは基準は与えるんだけど、基準の中で選手がしっかり判断をする。その判断をなるべく引き出してあげる、そして選手の良さを引き出すっていうところは常に心がけてやってました。
ーターニングポイントとなった試合は?
いろんなターニングポイントは多分あったかと思うんですけど、リーグカップのINAC戦(1次リーグ最終節)で、あれは内容的には完敗のゲームだったんですけど、何もできないようなゲームだったんですけど、あれを勝てたのはひょっとしたら大きかったかもしれないですね。
だから、あのゲームを本当に川澄奈穂美から道上彩花のワンポイントで、あとはずっと守ってたんですが、その1本で取れたっていうのは大きかったかもしれないですね。あとは同じカップ戦の大宮戦のところで体調不良者が多く出て、ベストが組めない中で、今までリザーブだった選手たちが頑張って引き分けを取れたのも大きかったかもしれないです。あの時に園田瑞貴がサイドバック初めてやったりとかして。この2試合で、とにかくサッカーなんか結局結果が全てで、結果がついてこないと信頼がすぐに崩れる世界。あそこの2つで結果を出せて、決勝まで行けたっていうところが大きかったです。カップ戦には勝負をかけてました。
それともう1個で言うと、ウィンターブレイク明けの3連戦で3連勝できたっていうところが大きかったかもしれないです。あそこでちょっと勝負をしてます。具体的なことはここでは言えませんが。
監督から見た川澄効果とは? チームを支えた中心メンバーたち
ーホーム戦平均の観客数は1700人以上で過去3シーズンで最多。サポーターの支えは?
もう繰り返してずっと言っているんですけれども、ホームでやはり8勝3敗。圧倒的にホームで勝てたのは、本当に紙一重の試合、どっちに転ぶか分からない試合で背中を押してくれたファンやサポーターの皆さんのおかげです。アウェーでもゴール裏のサポーターの数はほとんど、浦和以外には負けていないんじゃないかというくらいな感じ。浦和戦は平日でしたけれども、かなりの多くの方に来ていただいて、すごい背中を押してくれたというのはあるんです。何よりも彼女たちが頑張って、勇敢に戦って本当にすごいんです。いろんな状況の中で頑張って、それをファンの方が見て共感を受けて、また応援して、また勇敢に戦って、というのが繰り返して、あとはクラブのいろんなスタッフの方が頑張ったりとかして、いろんな意味で観客が増えたのすごくありがたいことです。3000人にしたいので、皆さんで5000人プロジェクト、お願いします(笑)。
ー川澄選手が加入されて、ピッチ内外で与えた影響力は?

アワーチームということで、まず、誰がリーダーとかじゃなくて、一人一人がこのチームのために何ができるか考えようねっていうことで考えて行動しようねって。カップ戦のときは主将を決めずに4カ月間はやりました。
それを実践した中でも、やっぱり最後厳しいところで戦っていくときには、やっぱり明確なリーダーを決めないといけないなって、誰にってずっと考えていたんですけど、やっぱ川澄だなと思ったのは、荷物持ちも何でもするんですよね。率先してやる。発言力もあって影響力もあるのは分かったけど、チームとしてやるべきことをやらないわけじゃなくて、それをやるんですよ。それでやっぱりお願いするわっていうふうに。結論は、本当にありがたかったっていう感じです。最後の試合が終わった後なんか、私が言葉足らずで何言ってるか分からないところで、最後にキャプテンが締めてっていうところでスパッとまとめてくれます。
トレーニング中でも若手に対してもすっごい言うんですよ。でも終わった後は、スパッと忘れて「はい!遊び行こー!」って感じになるんです。竹の割った性格ってあんな子のことを言うんだなっていうのを感じてます。
だから本当に厳しいことも言えるし、スパッと忘れてるし、あとはしっかり物事を俯瞰していろんなことをまとめたり発言したりとかできるので、すごいなっていうような形です。
ただ川澄だけじゃダメだと思うんですね。平尾(知佳)とかはもっとバランスをいろんなところを取りながらやってるし、山谷(瑠香)なんかは自分の思ったことを言うタイプで、そういうのもすごく大切。この3人のキャプテン・副キャプテンのバランスがよかった。あとは、メグ(上尾野辺めぐみ)がいるっていうことですね。メグも後ろでバランスを取って、俺のメンターなんですよね。なんかあったらメグに相談しに行ってどうだって聞いて。あとは姉御肌の川村優理っていう。そこらへんの5人ぐらいがしっかりと明確になったのと、中堅の石淵萌実とか道上彩花とか中堅どころがしっかりしている。あとは三浦(沙津紀)も、しっかり大人になってディフェンスラインをまとめた。

本当に川澄の効果はすごくあるんだと思うんですね。さっきも言ったように、竹の割ったような性格で、論理的に物事を俯瞰して言えた。そこを中心に携わるフォロワーがよかったと思うんですよね。リーダーの周りを支えるフォロワーがちゃんといたっていうことですね。あとは若手がついていくっていう風になった。川澄はまさに太陽のような子です。
選手がピッチで輝くことが第一
ーもっと女子サッカーが発展していくためには?
WEリーグの理念は大切で、理念をもとにビジョンがあって、行動指針っていうのはすごく大切なんですけど、やっぱり女性が輝くっていうことを考えた場合、選手がもっとピッチの上で輝くことが第一。社会的な行動っていうのも大切なんですけど、やっぱり彼女たちがピッチの中で輝くっていうことを、WE自体がどういう風に、マッチメイクにしても、考えていくっていうことをやって、その輝いてる彼女たちをたくさんのお客さんに見てもらうような施策をしっかりしていく。それで盛り上がっていけば、またメディアさんたちがついてくれて、それを発信して相乗効果になる。それで盛り上がったらスポンサーが入ってくる。スポンサーが入ったら環境が3億円ぐらいのクラブが5億になり、7億8億になっていく。そしたらいろんなものが変わってくると思うんですね。
だからこそ我々ができることは、ピッチの中で勇敢に戦いって、魅力あるサッカーをして、お客さんをエンタメとしてしっかり楽しませるっていうこと。それは彼女たちもわかってるから、試合が終わった後にあんな長い時間ハイタッチもやるし、試合の前でも夕方の5時ぐらいからサッカー教室とかずっと回ってるし、そういったことを女子サッカーの発展の中でいいサイクルをもっと彼女たちがピッチで輝く。そしてエンタメとしてやって、やっぱりマーケティングやブランディングをもっとしっかりしてたくさんの人を広げ込んでいく。
私は価値があると思ってます。見てたらすごいかっこいいし、綺麗だし、怖いところもあるし(笑)、本当に見とれてしまう人もいますよ。サッカー自体もスピードがないからとかよく言われますけど、だって12キロ走れないでしょ。あんなきゃしゃな子たちが12キロ走るんですよ。それってやっぱすごいことだなと。私もそんなに女子サッカーを見てたわけじゃないんですけれども、この間、女子チャンピオンリーグやってましたけど、より激しいですね。観客がすごいし、ああいう世界をどうしたら作ってあげられるかなって思います。
ー過密日程の連戦もあったが?
さっきも言ったように彼女たちがピッチでしっかり輝くようなマッチメイクっていうのは、やっぱりやらなくていい連戦はやらなくていいし、...