
酒に秘められた醸造の技や、発酵という化学反応が生む繊細な味を、自らの舌や鼻で知る-。
日本酒を官能鑑定する「きき酒」は、酒造業界で培われてきた技術だ。これが日本酒ファンにも広がり、プロに負けない秀でた感性を持つ人々が、全国のきき酒大会などで力を発揮している。
五感を研ぎ澄ませて酒と向き合う緊張感や、正答を導き出したときの達成感。そんな愉悦に満ちた“きき酒の沼”にはまった愛好家たちが、今日も技を磨いている。
味覚に嗅覚、思考もフル稼働…10種類の酒を「マッチング」
新潟清酒検定「金の達人」実技試験
新潟県内で行われる「きき酒」で規模が一番大きいのが、新潟清酒達人検定の最上位「金の達人」の実技試験だ。同検定事務局によると、2024年度は海外からの受験生を含む89人が挑戦した。
規模だけでなく、難易度も高い。達人検定は「銅」「銀」「金」の3ランクがある。オンライン試験で合否が決まる「銅」「銀」に受からないと、きき酒(マッチング法)の実技と小論文が課される「金」の試験に臨むことさえできない。23年度時点の検定保持者は「銅」4615人、「銀」1103人に対し、「金」268人。保持者の少なさからも「金」のきき酒の難しさがうかがえる。
そんな難関試験の様子を見せてもらった。試験日は去る11月2日、会場は朱鷺メッセ(新潟市中央区)の一室。開始直前、緊張感に包まれた会場は水を打ったように静まり、受験者の前には、まず「A群」としてそれぞれ異なる酒が入ったカップ10個が置かれた。
試験官の合図で一斉にきき酒をスタート。時折水を飲み、味をみた後に酒を吐き出す人あり、酒を眺めて色味を確かめる人あり。無言の会場に、カップを置くカタカタという音が響き渡る。受験者は酒の味を見定め、手元の紙に次々とメモしていく。

開始から10分後にA群の酒は下げられ、A群と同じ10種の酒を並べ替えた「B群」が配られた。今度はこちらを10分間できき酒し、A群とB群のどの酒が一致(マッチング)するかを解答する。
10種という酒の数は、全国きき酒選手権大会(日本酒造組合中央会主催)で出題される7種をしのぐ。ここにも、新潟清酒の矜持(きょうじ)が垣間見られた。
試験後、受験生たちは緊張が解けた、というより魂の抜けた様子に見えた。それだけ味覚・嗅覚、思考をフル稼働させたのだろう。
1回目の受験で合格する受験者はごくまれという。3年連続3回目の受験だった県内の50代男性は「試験前に酒蔵のセミナーに参加し、香りを鼻に抜くきき酒のポイントを学んだが、鼻風邪をひいてしまった」と肩を落とした。
しかし長年の酒飲みの意地もある。「落ちたら来年、また頑張りますよ」と前を向いた。
24年度の「金の達人」の試験結果は12月6日に発表され、14人が合格した。
◇きき酒の主な方法
・マッチング法-複数の種類の酒(A群)をきき酒し、それぞれの特徴を確認。A群と同じ酒を並べ替えたB群をきき酒し、A、Bのどの酒が一致するか回答する
・ランキング法-A群の酒をきき酒し、自分の好みの順位を付ける。その後、B群をきき酒し、同じく順位を付ける。ABで同じ酒に同じ順位を付けると点数は0点。間違うと、その順位の差の2乗が加算される。点数は少ないほうが良い
◇きき酒の「言語化」
例えば甘いや酸っぱいにも「余韻のある甘み」「刺激的な酸味」などいろいろな感じ方がある。多様な表現を身に付け、ききわけることが大切
◆難関試験突破の鍵は平常心、達人と学ぶ「勉強会」
難関の「金の達人」試験突破へ、きき酒を学ぶ場もある。...