高齢社会との向き合い方が問われる中で、議論を避ける政府の姿勢は心もとない。支え合う確かな年金制度を整えなければ、現役世代も将来を描けない。
政府が年金制度改革法案を閣議決定し、国会に提出した。パートの人らが厚生年金に加入するための年収要件(106万円以上)や企業規模要件(従業員51人以上)の廃止が柱だ。将来受け取る年金額を手厚くする狙いがある。
しかし、今回の目玉になるはずだった基礎年金(国民年金)の底上げが法案に盛り込まれなかった点で、政府の改革姿勢を疑問視せざるを得ない。
少子高齢化により保険料を納める現役世代が減る一方で高齢者は増えている。年金財政の悪化が指摘され、給付水準が低下していくことが心配される。
十分な受給が見通せないようでは、老後の生活を基礎年金に頼る人は心細いに違いない。
基礎年金の底上げは、就職氷河期世代などが低年金に陥るのを防ぐ対策でもある。
全国に1700万人以上いる氷河期世代はバブル経済が崩壊した影響を受け、パートなど非正規雇用で働くことを余儀なくされた。
厚生年金に加入していなかったり、国民年金保険料の納付期間が短かったりするため、受け取る年金額が低くなる恐れがある。
石破茂首相は4月、氷河期世代について高齢期を見据えた支援を強化するよう関係閣僚に指示した。その一方での底上げ見送りはちぐはぐに映る。
この世代が抱える不安にもっと真摯(しんし)に目を向け、解決策を探るべきである。
対策として厚生労働省は、会社員らが加入する厚生年金の積立金を活用し、給付水準が著しく低くなる事態を避ける底上げ案をまとめていた。
活用した場合、厚生年金の受給額が一時的に減る。厚生年金の加入者や保険料を労使折半で負担する企業側から不満が噴出し、自民党の一部議員からも「流用だ」との反発が出たことで、活用案は見送られた。
自民党内には、法案の提出自体を夏の参院選の後に先送りしようとする動きがあった。争点化を嫌ったものだ。
目先の思惑を優先しているようでは、将来を見据えた改革はおぼつかない。
負担増を求めるような痛みを伴う改革も含め、議論を尽くすのが国会であるはずだ。
提出が大幅に遅れたことで、6月22日の会期末までの審議時間は限られる。
「時間切れを狙っている」と野党が批判するのも当然で、今国会で成立するか不透明だ。
世代間の支え合いを持続可能な仕組みとするべく、政治が責任を果たさなければならない。