鳥インフルエンザの急拡大に歯止めがかからない。政府は非常事態宣言ともいうべき状況にあるとして、最大限の緊急警戒を呼びかけている。
事態を重く受け止めて手だてを尽くし、養鶏業者や市場などへの影響を極力抑えたい。
農林水産省によると、今シーズンの高病原性鳥インフルエンザによる鶏などの殺処分対象数が1千万羽を超えた。
これまで最も多かった2020年11月~21年3月のシーズンの計約987万羽を既に上回り、過去最多となった。発生の広がりも20道県を超えている。
本県では今季、阿賀町と村上市の養鶏場で陽性が確認された。国の防疫指針に基づき、計約145万羽が殺処分の対象となった。
このうち村上市の殺処分は130万羽に上り、国内で過去2番目の規模となった。
養鶏業者の打撃は大きい。業界も危機感を強めている。国や県などの手厚い支援が不可欠だ。
感染が確認された養鶏場は必要な防疫措置が取られ、そこからの鶏肉や卵は市場に出回らない。国内では鶏肉や卵を食べて、人に感染した例も報告されていない。
風評で無用な不安が広がらないよう、関係機関は適切に情報発信してほしい。
処分数の増加は鶏卵価格の上昇につながり、物価高で苦しむ家計や外食産業などに影響を与えている。流通に支障が出ていないかも含め動向に留意すべきだ。
感染は、欧米をはじめ世界中で流行している。日本の場合、渡り鳥によって欧州などからウイルスが営巣地のシベリアに運ばれ、日本で越冬する渡り鳥とともに侵入しているとみられる。
今季は流行入りが早く、10月に過去最も早く北海道と岡山県の養鶏場で確認された。専門家は同じレベルの感染が毎年のように起きる恐れがあると指摘する。
関係国と連携し、原因や感染ルートなど詳しい分析を急ぎたい。
改めて確認したいのは感染防止対策の徹底だ。野村哲郎農相は、感染が確認された農場について「長靴の交換や消毒ができていない事例があった」と指摘した。
対策を怠れば取り返しのつかない被害を招いてしまう。養鶏場での感染経路の可能性を綿密に調べ、全ての養鶏業者が対策を共有できるようにしたい。
大量の殺処分に従事する自治体職員や自衛隊員らは心身ともに重い負担を抱える。ケア体制をしっかり整える必要がある。
野生復帰が進むトキへの感染も心配だ。トキと同様に人工繁殖で復活したコウノトリの感染が昨年11月に香川県で確認された。
トキは佐渡市の施設のほか、長岡市や石川県などで分散飼育されている。関係者は引き続き細心の注意を払ってほしい。