科学捜査への信頼を損ねる事態だ。あまりにずさんな運用がされていたことにあぜんとする。早急に徹底した調査を進め、再発防止を図らねばならない。

 佐賀県警の科学捜査研究所(科捜研)に所属する40代の男性技術職員が、実際には行っていないDNA型鑑定を実施したように装う虚偽の報告などの不正行為をしていたことが明らかになった。

 不正は2024年10月までの7年余りで130件確認された。県警は、このうち13件に関する虚偽有印公文書作成・同行使や証拠隠滅などの疑いで職員を書類送検し、懲戒免職処分とした。

 130件のうち16件は、殺人未遂や不同意わいせつなどの事件の証拠として検察庁に送られていた。佐賀地検は「処分の決定や公判における証拠として使用された事例はない」として捜査や公判への影響を否定した。

 だが、使われなかったのは偶然に過ぎず、処分や公判の結果を左右した恐れもある。重大事であり、県警に猛省を促したい。

 男性職員が7年超で担当した632件の鑑定のうち、鑑定していないのに実施したと偽った報告が9件あった。

 捜査担当者から提供された試料に関し、DNA型を検出できるか調べていないのに「検出できなかった」とうその報告をしていた。

 職員は「上司に仕事を早く終わらせたと思わせたい」と理由を説明したという。公務に当たっているという意識を著しく欠いた身勝手な理由だ。

 試料は県警の再鑑定で、実際にDNA型が検出できなかったことが確認されたというが、ある警察幹部の「犯罪立証につながる重要証拠を見過ごす恐れがあった」との指摘は重い。

 DNA型鑑定は年々増えている。警察庁によると全国で実施された件数は24年に25万3941件と、約20年で10倍以上になった。背景にあるのは、自白の強要などにより冤罪(えんざい)が続いたことだ。

 近年でも、殺人罪で懲役12年の刑が確定し、服役した滋賀県の元看護助手が、自白の誘導があったとして再審公判で無罪となった。

 客観証拠を重視する捜査への転換が求められる中、その要であるDNA型鑑定を巡る不正は、科学鑑定への大きな打撃となる。

 不正が長年続いてきたことについて、佐賀県警は上司らの確認が不十分だったためとして、チェック体制を見直すとする。

 しかし「長年見逃され続けていたのは、佐賀だけの問題とは言えないのではないか」と指摘する識者もいる。

 必要なのは鑑定への信頼を取り戻し、再発を防ぐことである。

 佐賀県警はもとより、全国の都道府県警が同様の事案が起きていないかを洗い出し、適切な運用体制を築いてもらいたい。