米国の金融政策が世界経済にどう波及するか注視したい。日銀は米国の状況も十分に分析し、適切な政策判断をする必要がある。

 米国の中央銀行に当たる連邦準備制度理事会(FRB)は、連邦公開市場委員会(FOMC)で、主要政策金利を0・25%引き下げることを決めた。

 利下げは2024年12月以来9カ月ぶりで、第2次トランプ政権発足後は初となる。

 FRBのパウエル議長はこれまで、インフレを警戒して利下げを見送ってきたが、雇用悪化の懸念から方針転換した。

 利下げ再開は雇用のさらなる悪化を警戒し、景気を下支えするもので、妥当な判断と言えよう。

 8月1日に発表された雇用統計で、景気動向を映す就業者数が大きく縮小し、過去のデータも大幅に下方修正されたからだ。

 米国では、トランプ政権が発動した高関税による物価高への影響は軽微にとどまるものの、関税負担の増大から企業が新規採用を抑制するなどの動きが出ている。

 「雇用の下振れリスクが高まり(インフレとの)リスクのバランスが変化した」とするパウエル氏の説明は理解できる。

 ただ、高関税に伴う物価上昇圧力は根強く、行き過ぎた金融緩和はインフレを加速させる。

 雇用の最大化と物価安定を同時に実現するため、FRBは引き続き慎重な政策運営を求められる。

 米国の利下げによって日本経済は今後、緩やかなドル安・円高基調が見込まれる。

 円高では、輸出企業の業績は下押しされる一方、中小企業の業績は輸入物価の低下を通じて改善し、家計の購買力も押し上げる。

 日銀は19日の金融政策決定会合で、政策金利を現行の0・5%程度で維持すると決めた。経済や物価が想定通り推移すれば利上げする従来の方針は堅持する。

 東京株式市場では日経平均株価が4万5000円の大台を上回ったが、米関税による悪影響は今後表面化するとみられている。

 日銀は地方の景気動向にもしっかりと目を配り、利上げの時期を慎重に探ってもらいたい。

 米国の金融政策は為替政策などを通じて世界に影響する。

 そうした中で懸念されるのは、トランプ米大統領の振る舞いだ。

 大幅利下げを求めるトランプ氏は、利下げに慎重だったパウエル氏を批判し、辞任まで求めた。

 雇用統計で就業者数が大幅に下方修正されると立腹し、労働省の労働統計局長を解雇した。

 FRB理事に側近を置くなどして支配しようともしている。

 基軸通貨のドルを持つ米国の為政者が中央銀行の独立性を無視すれば、金融政策がゆがみかねない。あってはならないことだ。

 FRBは圧力に屈せず、断固として独立性を保たねばならない。