国民の暮らしに大きな影響を及ぼした恐れのある事案だ。徹底した調査によって、真相を明らかにしなければならない。

 軽油の販売価格を取り決めるカルテルを結んだとして、公正取引委員会は、独禁法違反(不当な取引制限)の疑いで東京都や大阪市、名古屋市などの販売会社8社を強制調査した。

 8社の取引量は市場の半分以上のシェアを占めている。

 軽油はトラックなどの燃料に使われており、物流に不可欠だ。長年の価格調整で、物流コストが増加し、消費者の負担につながった可能性がある。

 公取委は今回、事態の重大さに鑑み、裁判所の令状を得て捜索や証拠の差し押さえができる「犯則調査権限」を約3年ぶりに行使した。刑事告発も視野に、押収した資料の解析を進めるとみられる。

 8社は調査に全面的に協力するべきである。

 関係者によると、8社は担当者の会合などを通じ、東京都内に事業所がある運送業者や建設業者に法人契約で販売していた軽油の価格を調整した疑いがある。

 公取委は、8社のうち6社が神奈川県内の運送業者に販売する軽油の価格調整をした疑いがあるとして、5月に立ち入り検査した。この過程で今回の事案が浮上したとみられる。カルテルの蔓延が懸念される。

 見過ごせないのは、軽油やガソリンが2022年のロシアのウクライナ侵攻などで世界的に急騰し、高止まりしていることだ。

 軽油1リットル当たりの全国平均小売価格は20年5月11日時点で、ここ数年での最安値の106・2円だった。25年4月14日時点で最高値の166・2円となり、最新の今月8日時点は154・9円だ。

 政府はガソリンの小売価格を抑えるため、22年1月以降、原油を仕入れる元売り業者に一定の額を補助する支援制度を始めた。これまで投入した予算は計8兆円以上となっている。

 補助金を巡っては会計検査院が23年11月、「小売価格に反映されていない可能性がある」と指摘していた。今回の公取委調査を契機に、政府は補助金の実効性を検証するべきではないか。

 物価高騰が続く中、与野党はガソリン税に上乗せされる暫定税率の廃止に合意した。野党は軽油の暫定税率廃止も求めている。

 暫定税率が廃止されたとしても、販売会社が価格カルテルを結べば、消費者が十分な恩恵を得ることはできない。

 軽油やガソリンなどの石油製品は規格が一律で品質に差が出ず、商品の価格だけで競争しなければならないとされる。

 お互いに収益を確保しようと、価格調整が行われてきたとすれば、問題の根は深い。法律を軽視する業界の体質が問われよう。