子どもたちの安全確保が最優先なのは言うまでもないが、労働者の権利を不当に侵害することもあってはならない。難しい判断に直面する現場を支える指針となるよう、議論を進めることが重要だ。
子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を雇用主側が確認する制度「日本版DBS」を巡り、こども家庭庁の有識者検討会は運用指針の策定に向けた中間取りまとめ案を大筋で了承した。
制度を盛り込んだ「こども性暴力防止法」は、学校や認可保育所などに性犯罪歴の確認や安全確保措置を義務付けている。
民間事業者の制度への参加は任意だが、国の認定を受ければ同様の対応が必要となる。
中間案では対象となる事業者について、子どもに技芸や知識を対面で教えるといった一定の要件を挙げ、具体的に学習塾やスポーツクラブ、子ども食堂や芸能事務所などと明記した。
さまざまな場面で子どもたちが性被害を受けている。幅広く対象を示して認可を受ける事業者を増やし、被害の芽を摘みたい。
学校、保育所についても教員や保育士は一律で性犯罪歴の確認対象としたほか、送迎バスの運転手や嘱託医なども現場の判断で対象となり得るとした。
義務の対象となる施設、民間を合わせ、働く人は約400万人に上ると推計される。
性犯罪歴が確認されれば、現職者の場合には子どもと接する業務から原則除外し、まずは配置転換を検討する。新規採用者なら内定取り消しを検討する。
性犯罪歴がなくても被害の申告があれば、加害が疑われる人を一時的に業務から外し事実関係を調べる。性暴力とまでは言えない「不適切な行為」があれば、その程度に応じ指導や配置転換をする。
いずれも子どもを守る上で当然の措置である。
同時に、事業者には労働者の権利への配慮が求められる。
中間まとめは、被害の申告があっても、事実確認をする前の段階で懲戒や確定的な配置転換を行ってはならないとした。合理性を欠いた処分を防ぐ狙いといえよう。
ただ、小規模事業所では「子どもと接しない業務がなく配置転換できない」など、解雇や懲戒以外の選択肢がない場合もある。
年内とする指針の策定に向けてさらに対応策や事例を積み上げ、現場が判断に迷うことがないようにしなければならない。
中間まとめでは、面談室など子どもと1対1になる場所への防犯カメラ設置を「有効」とする案も示された。死角をなくす効果の一方で、子どものプライバシーの問題や現場の萎縮も指摘される。
子どもの被害を防ぐには周囲の全ての大人の力が必要だ。政府は現場の声を聞き、有効な指針を策定してもらいたい。