2024年は混迷の幕開けとなった。甚大な被害をもたらしている能登半島地震や、自民党派閥の政治資金パーティーの裏金問題への対応を巡って、政権の力量が問われる。
天変地異や政治腐敗で、国民の不安と不信が高まっている。政治が国民に届く言葉で語り、行動できるか、極めて重要な局面にある。政治に言葉の力を取り戻してもらいたい。
◆信頼を回復できるか
〈国民感覚とのずれを深く反省し、さまざまな批判にこたえ、「政治は国民のもの」と宣言した立党の原点に返り、党の再生を成し遂げて国民の信頼回復を果たさなければならない〉
1989年5月、リクルート事件を受けてまとめた政治改革大綱で、自民は現状認識をこう記していた。
それから35年が過ぎ、またも深刻な政治不信を招いている。今度こそ「政治とカネ」の問題と決別せねばならない。
岸田文雄首相にとっては、9月の党総裁再選にたどり着けるかどうかの正念場だ。
裏金問題は、東京地検特捜部による党最大派閥・安倍派(清和政策研究会)、二階派(志帥会)事務所の家宅捜索や、安倍派幹部の任意聴取に発展した。
首相は4日、年頭記者会見で裏金問題を陳謝し、「まず求められるのは国民の信頼を回復し、政治を安定させることだ。党の体質刷新の取り組みを進める」と強調した。
近く党内に総裁直属の「政治刷新本部」を発足させる。
共同通信社の世論調査では、裏金問題に関する自民の自浄能力は「ない」「あまりない」との答えが77%に上り、国民の不信感は根強い。
腐敗の温床である派閥政治を改革し、総裁の責任を示さなくてはならない。党内をまとめ、実効性ある対策を示せるか、首相の指導力が試される。
政治は言葉が重要だ。しかし民主主義の基本である国会では、その場しのぎの言葉が繰り返されている。
首相もさまざまな決意を口にする割に行動が伴わず、言葉が空疎に響くことがある。
肝いり政策の少子化対策では「異次元」をうたって期待値を高め、児童手当拡充や多子世帯の大学無償化を打ち出した。
しかし、財源確保では国民の批判を意識して「追加負担を生じさせない」と説明し、政策の継続性が見通せなくなった。
一方で、首相は「先送りできない課題に一つ一つ取り組む」としながら、閣議決定だけで国の方針を大転換する手法を、昨年も踏襲した。
年末に防衛装備移転三原則と運用指針を改定して直ちに新規定を適用し、殺傷能力のある武器輸出を決めた。
国会論議を経ずに、安全保障政策を転換させることが繰り返されていいはずがない。首相はなぜ国民に丁寧に語らないのか、理解に苦しむ。
◆1強政治の重い代償
そうした姿勢は首相に限ったことではないだろう。
裏金問題で松野博一前官房長官は、国会答弁で「お答えを差し控える」と連発した。
公選法違反事件や税金滞納で政務三役が相次いで辞任したが、いずれも国民への十分な説明はなされなかった。
言葉で伝える重要性や、議論を尽くして合意を図る努力を軽視する政治家が、国民の政治不信を増幅させている。
「安倍1強」「自民1強」の政治体制が長く続いてきたことと無関係ではないだろう。
その体制を許したという点では、野党にも結果責任があると言わざるを得ない。野党が与党に負けぬ力を持ち、対峙(たいじ)することで緊張感を生むからだ。
物価高対策や賃上げの実現、社会保障制度改革、防衛増税の行方など課題は山積している。
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題を含むエネルギー政策には、県民の関心が高い。
国会でどの党がどう方針を示すか、国民が注視していることを忘れないでもらいたい。
衆院は任期満了まで2年を切り、今年は解散・総選挙のタイミングが焦点になる。
野党第1党の立憲民主党と、その座を狙う日本維新の会のつばぜり合いが続く。国民民主党は一部が新党結成に動いた。
切磋琢磨(せっさたくま)はいいが、野党が足を引っ張り合うのでは、自民1強は揺るがない。先を見据えて戦略を示し、実行できるか。野党も真価が問われている。













