日本の政治が新たなページを開いたことになる。政治に対する国民の信頼を取り戻すには、多様な声をくみ取る政権運営を心がけなくてはならない。

 国会は21日、衆参両院で首相指名選挙を行い、第104代首相に、自民党の高市早苗総裁を選出した。初代から66人目にして初の女性となる。

 世界の中でも男女格差が大きいと指摘される日本で、ようやく政界の「ガラスの天井」が破られた意義は大きい。

 ◆格差解消つながるか

 世界では、英国のサッチャー元首相やドイツのメルケル元首相ら、多くの女性が政権を担ってきた。日本もやっと仲間入りを果たせたことになる。

 しかし組閣は、高市氏が女性閣僚の積極登用に意欲を示したものの起用は2人にとどまり、過去最多の5人には届かなかった。党四役人事も女性1人では、世界に遠く及ばない。

 高市氏は、政治が男性中心の旧態依然とした価値観で進んできた中で、後手に回った男女の賃金格差の解消といった課題に光を当て、若い世代が変革を実感できる成果を上げるべきだ。

 保守的な考えで知られる高市氏は、選択的夫婦別姓の導入に一貫して反対するといった姿勢が顕著で「女性に寄り添っていない」との批判がつきまとう。ジェンダー格差の解消につながるかは見通せない。

 自らの主義や主張を押し通すだけでなく、社会の中で生きづらさを抱える人々や、異なる主張を持つ人の声にも耳を傾けながら、多様性のある政策を進めてもらいたい。

 公明党が26年続いた連立政権を解消し、新政権は日本維新の会と新たな連立を組んだ。維新は閣外協力にとどまるが、日本の政治が大きな転換点を迎えたことは間違いない。

 自民には穏健派の議員も多くいる中で、保守色の強い維新と合意した政策を実行し、連立を安定させられるか、高市氏は難しいかじ取りを迫られる。

 組閣では外国人政策の司令塔を担う新設の担当相に、保守派の若手を抜てきするなど、両党で合意したタカ派色の強い政策を推進する足場を固めた。

 そうした布陣が行き過ぎた外国人規制を招くことがあってはならず、十分議論を深めて取り組む必要がある。

 高市氏は総裁選でも外国人政策の厳格化を主張し、その中で「警察で通訳の手配が間に合わず、不起訴にせざるを得ないとよく聞く」と述べたが、実態と異なる。政治家の発言は重いことを自覚しなくてはならない。

 自公政権下では、強く響きがちな自民保守系議員の主張に対して公明がブレーキ役を果たしたが、維新にそうした役割は期待しにくい。防衛力強化などではアクセルが踏まれる可能性もあるだろう。

 高市氏は、政府が2022年末に策定した国家安全保障戦略など安保関連3文書について、前倒しで改定する方向で調整を始めているという。

 防衛装備品の輸出を推進するため、非戦闘目的の5類型に限り輸出を認める現行ルールの撤廃も議論を進める考えだ。

 トランプ米大統領の来日を来週に控え、防衛費の増額圧力を強める米政権に対して、防衛力強化を進める姿勢を示す狙いがあるとみられる。

 ◆バランスある対応を

 国会での議論もないうちに、重大な政策転換を図るような対応は慎まなくてはならない。

 世界のリーダーが自国第一主義に傾倒する中で、高市氏には平和主義の旗を掲げる日本の首相として、バランスの取れた外交を意識してもらいたい。

 内政では、7月の参院選後に続いた政治空白で停滞した物価高対策を速やかに進めることが不可欠だ。ガソリン減税に向けた与野党協議も急がれる。

 連立政権の枠組みは変わったとはいえ、少数与党の政権であることに変わりはなく、不安定な政権運営が続く。野党の協力を得る努力が必要だ。

 北朝鮮による拉致問題は何ら前進しないまま、首相ばかりが代わってきた。被害者の即時帰国を実現するため、高市氏は本気で取り組まねばならない。

 価格高騰が続くコメ問題は、現場の声をしっかりと聞き、生産者と消費者の双方が納得できる政策を示す必要がある。

 維新が軸足を置く大阪だけでなく、日本全体に目配りをし、地方が活力を取り戻すための方策を講じることが求められる。