厳しい世論をないがしろにした人事は、政治不信を深めるばかりだ。新政権の失速要因になることが懸念される。

 政府は、副大臣26人と政務官28人を決定した。うち外務副大臣に就いた堀井巌氏ら7人は、自民党旧安倍派で派閥裏金事件に関係していた。高市早苗首相は、同じく裏金関係議員の佐藤啓参院議員を官房副長官に充てた。

 事件発覚以降、岸田・石破両政権は、関係議員の起用を見送っていた。高市氏による人事方針の転換である。

 党人事でも高市氏は、旧安倍派の有力者で、政治資金収支報告書への不記載があり、政策秘書が略式起訴された萩生田光一氏を幹事長代行に登用している。

 自らの総裁選勝利を支えた旧安倍派への見返り人事であることは、明らかだ。

 7月の参院選大敗について自民が総括した報告書での「猛省」を忘れてしまったかのようだ。

 報告書は「自民に対する不信の底流」として「政治とカネを巡る不祥事での信頼喪失」を挙げていたはずである。

 新内閣発足を受けて共同通信社が実施した世論調査で、萩生田氏を要職に起用した人事は「適切ではない」が70・2%に上った。

 高市内閣の支持率は64・4%となった。発足直後の比較では岸田内閣の55・7%、石破内閣の50・7%を上回った。だが、自民の政党支持率は前回の33・8%から31・4%へ下がっている。

 首相個人への期待感に比べ、自民への支持が低いのは、政治不信の根深さを表すものだ。

 高市氏は裏金事件に関係した議員について、党の処分や国政選挙で有権者の審判を受けたとして「適材適所で仕事をしてもらう」と述べてきた。

 しかし、公明党が連立政権を離脱した理由を重く受け止めるべきである。斉藤鉄夫代表は離脱に当たり「裏金事件は既に決着済みとして国政運営に取り組む姿勢は国民の感情と懸け離れている」と自民を非難した。

 政治とカネの問題を棚上げしたまま、みそぎが済んだかのように進むことは許されない。裏金事件の真相を解明し、国民に説明することが不可欠だ。

 新たに連立を組む日本維新の会の吉村洋文代表は、高市内閣の人事について「首相の専権だ」と述べ、問題視しない姿勢を示した。

 政権当事者としての意識を欠いているのではないか。自民をたしなめる役割を求めたい。

 野党の反発は強い。立憲民主党は、佐藤官房副長官による法案説明を当面拒否することを明確にした。この臨時国会で急がれる経済対策の審議に影響しかねない。

 高市政権は「決断と前進」を掲げる。独善でなく、世論を踏まえた前進でなければならない。