株式市場の好調を物価に負けない賃上げにつなげ、経済を確実な再生軌道に乗せたい。

 東京株式市場の日経平均株価が大幅続伸し、12日には3万5577円11銭で取引を終えた。終値で3万5000円の大台を突破したのはバブル経済期の1990年2月以来となる。

 背景に、日本企業の堅調な業績を受けた株価の先高観がある。

 新型コロナウイルス禍からの景気回復や円安を追い風に、自動車など輸出関連企業を中心に業績の好調な推移が見込まれ、海外投資家の買いが進んだ。

 今月新たな少額投資非課税制度(NISA)が始まり、資金が市場に流入したこともある。

 市場関係者には、今春闘での賃上げを見据えて、期待先行で上昇しているとの見方も出ている。

 ただ、勢いがつき過ぎれば揺り戻しが警戒され、油断できない。

 今年の日本経済は、日銀が「金利のある世界」へ一歩を踏み出すかどうかが最大の注目点だ。

 日銀は賃金上昇を伴う形で消費者物価上昇率を2%で安定させる目標を掲げ、マイナス金利政策などで金利を抑えてきた。

 植田和男総裁は目標が実現する確度が十分高まれば金融政策の変更を検討するとしている。判断は今春闘ではっきりとした賃上げが続くかどうかによる。

 労働団体の連合は今春闘で基本給のベースアップ(ベア)と定期昇給分を合わせて5%以上の賃上げを求める方針だ。

 連合の目標には経団連も理解を示し、基本的な考え方や方向性、問題意識は一致している。

 焦点は、国内の労働者の約7割が勤務する中小企業などにも賃上げが波及できるかどうかだ。原資を確保するには、価格転嫁など取引条件の改善が不可欠だ。

 経済の好転には十分で継続的な賃上げが欠かせないが、厚生労働省の毎月勤労統計調査では、物価変動を加味した実質賃金が昨年11月で20カ月連続のマイナスとなり、物価上昇に賃金の伸びが追いつかない状況が続いている。

 見通せないのは、能登半島地震の影響だ。北陸地方が強みを持つ製造業が被災し、生産活動が下振れする懸念が拭えない。

 日銀は1月の地域経済報告(さくらリポート)で、北陸の景気判断を据え置き、「地震の影響を注視する必要がある」とした。

 影響を最小限に食い止め、地域経済や雇用を守る必要がある。政府には手厚い支援を求めたい。