自衛隊の幹部らが組織的に計画して参拝しており、憲法の定める政教分離に抵触していると言わざるを得ない。防衛省は厳正に調査し、誤解を招く行動を二度としないよう幹部や隊員をしっかり教育しなければならない。
陸上自衛隊の陸上幕僚副長(陸将)ら数十人が、靖国神社を集団で参拝していたことが分かった。
防衛省は1974年の事務次官通達で、部隊での宗教の礼拝所参拝や、隊員に参加を強制することを禁じている。同省は通達違反の可能性があるとしている。調査するのは当然のことだ。
参拝したのは、陸自の航空事故調査委員会の関係者で、いずれも防衛省や自衛隊内部の数十人。副長は委員長を務め、陸将補などの幹部もいた。新年の安全祈願として、陸自の担当部署が参拝の実施計画を作成したという。
憲法は信教の自由を認めている。自衛官も私的な参拝なら問題はない。幹部らはいずれも時間休などを取得、制服ではなく私服で参拝した。玉串料も私費だった。
しかし、防衛省は実施計画は行政文書としており、副長ら何人かは移動に公用車を使っていた。
参拝した自衛官は防衛省の聞き取りに「公式参拝の意味合いではない」とし、副長は公用車利用の理由を「能登半島地震の災害派遣中であり、速やかに職務に戻るため」と説明しているという。
だが、防衛省の内部にさえ「計画まで作っており完全な公務。私的参拝という言い訳は通らない」との見方があり、公務の延長上にある意図的な参拝とみなされても仕方がないだろう。
2015年には、陸自化学学校が「精神教育の一部」として参拝し、関係者が処分された。その教訓が生かされたのか甚だ疑問だ。
副長らの参拝は今年だけなのか、他の部隊では行われていないのかなどを含め、防衛省には厳しい調査が求められる。
靖国神社には、戊辰戦争の官軍兵士のほか日清・日露戦争や太平洋戦争などの戦死者約250万人が祭られている。1978年に、A級戦犯14人が合祀(ごうし)された。
首相や閣僚らが参拝するたびに、中国や韓国との間で外交、政治上の問題が浮上し、「過去の侵略戦争を美化している」などと内外から反発の声が上がっている。
海外から見れば自衛官は軍人であり、より慎重な行動が求められるのは、言うまでもない。
日本の安全保障環境は厳しくなっている。集団的自衛権の行使が容認され、海外の戦争で自衛官が命を落とす恐れが現実味を帯びる中、戦前のような教育訓練がされていないか、懸念の声もある。
能登半島地震の災害対応で、現地では自衛官が被災者に寄り添って活動している。陸将らの組織的な参拝は、国民の信頼を失いかねない。反省を求めたい。













