災害で犠牲になった人を尊び、安否を気遣う人々に伝える上でも重要な情報だ。現場の混乱を回避するためにも、国が公表の指針を定める必要がある。
能登半島地震で亡くなった人の氏名の公表が、発生から2週間を経て15日に始まった。17日までに死亡した232人のうち、遺族が同意した59人が明かされた。
今回の地震は、建物倒壊や津波、火災発生、孤立集落の多発など被害が多岐にわたり、全容把握に時間がかかっている。
元日の発生で、住民以外に帰省などで現地を訪れていた人も多く犠牲になった。
そうした中で自治体職員は、遺族を捜し、大変な労力を要して氏名公表の同意を得たに違いない。
亡くなった人の氏名や年齢、死因は、災害の姿を知り、今後の対策につなげていく上でも、非常に重要な意味がある。
石川県は連絡が取れない安否不明者の氏名は、発生約55時間後の3日深夜から公表していた一方で、死者の氏名公表は発生から2週間後となった。
背景にあるのは、遺族の同意を公表の条件とする県の基準だ。
馳浩知事は「救助や検視をして遺族を捜して同意を得るプロセスに時間を要した」と説明した。
公表前には「人命救助が最優先で、マンパワーが限られる中、業務が滞る」と述べていた。
丁寧な対応が欠かせないのは当然だ。基準の妥当性については検証する必要があるだろう。
災害時に死者の氏名を公表するかについては明確な国の指針がなく、近年は石川県と同様の対応を取る自治体が増えている。本県も遺族の同意を条件としている。
一方、兵庫県は昨年、南海トラフ地震など大規模災害時は遺族の同意の有無にかかわらず公表する場合があるとの方針を決めた。自治体の負担軽減を図るという。
国は昨年3月、迅速な公表が捜索に役立つとして、安否不明者については、家族の同意なく原則公表するとした指針を策定した。
しかし死者については個人情報保護法の対象外として扱わなかった。国の防災基本計画にも死者氏名の公表規定はない。
現状は自治体によって基準が異なり、対応に違いがある。災害は一つの県や市町村などの行政区域内にとどまるとは限らず、基準に差があれば、住民や行政現場の混乱を招きかねない。
過去の災害では、死者の氏名公表によって捜索を終え、災害対応の次の段階に進めた事例もある。
安否不明者を公表する流れができたのであれば、亡くなった人の氏名公表についても、国が明確な指針を示すべきだ。
教訓につながるように、自治体は情報の開示を続けてほしい。













