巨費を投じて大規模な治水対策を講じる計画だ。完成までの期間も長い。国には費用対効果や完工までの対策などについて丁寧な説明が求められる。

 国土交通省高田河川国道事務所は、上越市を流れる関川水系の保倉川で計画する放水路の建設ルートを初めて公表した。保倉川が関川に合流する直江津地域などの浸水被害を防ぐ目的がある。

 保倉川を下流域で分岐して日本海までの約3キロを掘削、放水路の幅は110~115メートルとなる。

 堤防や管理道路を含めた用地は50ヘクタール弱で、現在、家屋約170軒と事務所や神社などがある。

 保倉川下流域は土地が低く、浸水すると大きな被害が出る懸念がある。1970年代から放水路が構想されてきた。

 95年の7・11水害を契機に、最初のルート案が96年に公表されたが、突然の発表に地域住民が反発し、長年白紙撤回を求めてきた。

 整備されれば移転を余儀なくされ、生活環境が変わる地元が賛成に転じたのは、全国で豪雨災害が相次いでいることが大きい。

 「防災のために」という苦渋の選択であることを、国はしっかり受け止めるべきだ。

 気になるのは、2017年に約550億円と示された事業費が約1300億円に増大したことだ。

 国は激甚化する豪雨災害を踏まえ、30年に1回発生する規模の洪水時に放水路へ流す水量を、毎秒700立方メートルから毎秒900立方メートルに引き上げた。

 工事規模の拡大に加え、人件費や物価の上昇、これまでの調査で確認された軟弱土対策なども事業費増加の要因となった。

 国は大規模な洪水が発生し保倉川が決壊した場合、浸水面積733ヘクタール、被害人口1万3287人、浸水戸数5185戸、被害額は1386億円に上ると想定する。

 放水路が完成すると、保倉川の氾濫は防げるという。しかし保倉川下流部は鍋底のような低地のため、市街地の雨を排水しきれなくなる「内水氾濫」の懸念は続く。

 能登半島地震を受け、放水路への遡上(そじょう)が想定される津波対策にも関心が集まるだろう。

 放水路完成目標は30年後で、そのころには被害想定が大きく変化している可能性もある。

 国は関川水系全体の河川整備計画を3月末までに改定し、その後、事業化に向けて放水路の費用対効果を精査する考えだ。事業の妥当性と経済合理性を明確に示してもらいたい。

 治水政策はダムや堤防、河道掘削だけでなく、水田に雨水を一時的にためる「田んぼダム」や浸水しやすい地域の開発規制、建築物の耐水化などを組み合わせる流域治水の考え方に転換しつつある。

 住民の命と財産を水害から守るため、放水路だけでなく、効果のある複合的な対策を求めたい。