JR新潟駅の周辺整備事業により取り壊しが決まっている新潟駅舎。すでに正面の入り口は封鎖されたが、外観はまだ手つかずで、ふと現役なのかと錯覚してしまう。だが11日、夜の新潟の玄関口にともされ続けてきた「新潟駅」の青い灯りが、静かに役目を終えた。
本紙記事によれば、万代口の駅舎は内装を中心に解体が進んでいる。外装が取り壊されるのは来年3月ごろからの予定だ。夜も明かりがついていた駅舎はすっかり無人となり、今はどの窓からも明かりが見えない。

〽青い灯がゆれる 新潟駅よ
かつて歌手の美川憲一さんが歌い大ヒットした「新潟ブルース」の3番に新潟駅の青い表示が登場する。別れた女(ひと)を想って歩く新潟の町並みが歌われ、その最後に見上げるのがあの青い灯だ。同曲の「聖地巡り」ができるのも今宵限りになってしまった。
小生は関東地方出身。残念ながら歌詞に登場する場所で、歌のような淡い思い出になるような経験はなかった。だが、郷愁という意味では、この青い灯りにはちょっと寂しい思い出がある。幼い頃は母の故郷である新潟市に帰省するのが楽しみだったが、滞在を終えて帰路につくとき、「まだ帰りたくない」とどこか恨めしげに見上げたものだったからだ。
だが縁あって当地で社会人となった今は、真逆の思いを抱く。仕事の合間を縫っての帰省は、いつも退勤後その足で新幹線に飛び乗った。「家族や旧友に会える、母校に遊びに行こうか、なじみのあの店に顔を出そう―」。そんな胸の高鳴りを隠せぬまま、駅舎に駆け込む自分に「羽を伸ばしておいで」と見送ってくれたような気がして。

思い出は記憶に刻まれているが、この目で見られるのはもうないと思うと、最後を見届けずにはいられなかった。新型コロナウイルスの感染拡大で帰省はかなわないが、かつてのように退勤後に足早に新潟駅へ向かい、最後の「青い灯」を写真に納めた。同じように、最後の灯りを目に焼き付け、写真に収めようと、スマートフォンやカメラを構える人の姿も多く見られた。

手前のバスターミナルも、駅前広場の整備によって姿を消す。後退してレーンに駐車するスタイルのターミナルは全国的にも珍しい上、減少傾向にあると聞く。このターミナルと「青い灯」の共演もついに終演。撮るべきはやはりこの構図だ。この日も変わらず、手前のターミナルには大型バスが豪快なバックを披露していた。

市民、県民の日々の暮らしから、旅立ちや帰郷、街の移り変わりを静かに見つめ続けてきた灯りが消えた。これから駅前の姿は大きく変わるだろう。新しい駅舎が見つめる新潟が、今までよりもっと光り輝く街になりますようにと、最後のシャッターを切った。
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