盲目の歌人、里村英棟の紀行文「伊夜日子詣紀并伊夜日子宮奉納和歌十二首冩」
盲目の歌人、里村英棟の紀行文「伊夜日子詣紀并伊夜日子宮奉納和歌十二首冩」

 江戸時代末期の1845(弘化2)年、新発田の盲目の歌人が弥彦神社に和歌奉納の旅に出る-。道中の揺れ動く心情をつづった紀行文が、東京・神田の古書展で見つかった。問い合わせを受けた新発田郷土研究会の里村修平さん(75)=神奈川県海老名市=が調査を進めると、歌人は偶然にも自身の先祖に当たることが判明。「不思議な巡り合わせだ。このような人物が新発田にいたことを広く伝えたい」と、驚きとともに語った。

 歌人は里村英棟(ひでむね)。新発田藩家老を代々務めた里村家の家譜によると、英棟は家老職の父・英識(ひでき)の長男として1798年に生まれた。幼少期に病気が原因で失明。藩の要職には就かず、和歌の道を選ぶことになる。

 英棟が残した紀行文を2023年秋、神田の古書展で購入したのは東京都台東区の高校教員で、和歌や国学を研究する中澤伸弘さん(62)。同じ「英棟」という名の別の歌人の書物と思い、手に取った。「読み進めると新潟や新発田の地名が出てくる。違う人物だ」。新発田郷土研究会のホームページを探し当て、情報提供を求めた。

 問い合わせを受けたのが里村さんだった。自身と同じ名字に関心が湧き、調査を開始。代々受け継ぐ家譜をたどると、英棟の名前があった。古文を読解できる中澤さんと、新潟県新発田市出身で土地勘があり、歴史に詳しい里村さんが協力し、紀行文を読み解いた。

▽和歌奉納の旅の心情つづり…

 紀行文は「伊夜日子(いやひこ)詣紀并伊夜日子宮奉納和歌十二首冩」。1845年9月27日(旧暦)、英棟は従者とともに新発田を出発。弥彦神社までの道のりを踏破し、自作の和歌12首を奉納して無事帰宅するまでの7日間の旅路を描いた。従者の目を通して見た風景や、湧き起こる感情を和歌にして添えた。

 「登場する地名には一通り足を運び、英棟の旅を追体験できた」と里村さん。新発田市佐々木や新潟市北区木崎を歩き、船で阿賀野川を渡って東区へ。中央区の白山神社に寄り、西区の五十嵐浜、西蒲区岩室温泉などを経て、弥彦神社に至ったルートが読み取れた。里村さんは道中で詠まれた和歌の味わい深さにも着目。「暑しとて 秋の日和の青空に かさして通る 笠柳村」と韻を踏む歌や、「岩室と いへどやどりは 綿やにて 又いでゆにて あたたまりぬる」と、硬い岩と、柔らかい綿との対比を楽しむ歌もある。

紀行文を入手した中澤伸弘さん(右)と、里村英棟の子孫に当たる新発田郷土研究会の里村修平さん=東京都江戸川区

 念願がかない、...

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