母親代わりのケティと暮らした家の前で幼少期を振り返るガブリエル=2025年7月、デンマーク・コペンハーゲン(撮影・沢田博之、共同)
 母親代わりのケティと暮らした家の前で幼少期を振り返るガブリエル=2025年7月、デンマーク・コペンハーゲン(撮影・沢田博之、共同)
 「実験」で一緒になった子どもらとの写真を手にするガブリエル。ヌークの孤児院前で撮影されたという=2025年7月、デンマーク・コペンハーゲン(撮影・沢田博之、共同)
グリーンランド・ヌーク、デンマーク

 6歳のガブリエル・シュミット(80)は、姉がこぐ小舟の中で泣きじゃくっていた。1951年の初夏。北極に近い世界最大の島グリーンランドの集落を離れ、大型船が待つ町へ向かいながら。

 大型船の行き先は約3500キロ離れた宗主国の北欧デンマーク。母は他界し、父が8人きょうだいを育てていた。「父は私を手放したくなかったはずだ」。理由を聞かされずに家族から引き離され、ガブリエルの涙は船上でも止まらなかった。

 デンマーク政府は、植民地だった島の先住民イヌイットの生活や教育の水準を向上させようと躍起だった。健康で頭脳明晰(めいせき)な子どもらにデンマークの言葉と文化を植え付け、島の将来を担うリーダーを育てる...

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