発表のポイント:
光ファイバーセンシングにより地中空洞化を推定する基本手法を実証:今回実証した光ファイバーセンシングを用いた手法により、たとえば1日に1回といった高頻度で地中深さ約3~30mの広範囲の遠隔での調査が可能になります。
実際の市街地におけるNTT設備ではじめて実証:既存の地下管路に敷設された光ファイバーを用いた実証実験により、実際の市街地において本手法の有効性を確認しました。これにより、地盤特性の経時変化から地中空洞化の早期発見が期待できます。
今後は、2026年度中にNTTグループ会社を通じて自治体などとの実証実験やシステム開発を推進し、インフラ監視や防災システムとしての早期サービス化をめざします。
NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と国立研究開発法人 産業技術総合研究所(東京本部:東京都千代田区、理事長:石村 和彦、以下「産総研」)は、既存の通信光ファイバーを活用し、広範囲の地盤特性を常時モニタリングする手法を実証しました。さらに、空洞をモデル化したシミュレーションにより、地中空洞の形成を推定できる可能性を確認しました。道路陥没リスクの発見に向けた従来の地中空洞化調査は専用の機器を用いた現地測定が必要であったため、数年に1回程度の点検周期でしたが、本成果により、たとえば1日に1回といった高頻度で地中深さ約3~30mの広範囲の遠隔監視が可能になります。また、既存の地下管路(約62万km)に敷設済みの通信光ファイバーを活用できるため、さまざまな場所を効率的に検査できます。本技術は、既存インフラを活用した広域・低コストな監視を実現し、都市防災・減災やインフラ維持管理の高度化への貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年11月19日~26日に開催されるNTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap※1に展示予定です。
1. 背景
近年、都市部では老朽化した上下水道などのインフラへの土砂の流入による地中空洞の発生が社会問題となっています。道路陥没事故はこの地中空洞によって発生し、交通障がいやライフラインの寸断を引き起こすだけでなく、人命にかかわる重大事故となる可能性があり地域社会に大きな影響を与えます。従来の空洞調査は、地中レーダーや超音波などを用いた現地調査による手法が主流でしたが、これらの手法での調査深度は地表から約2mと限定的であり、専用の機器を用いるため時間や手間もかかり、高頻度の点検・監視は困難でした。このため、より深い範囲を効率的かつ低コストで常時監視できる新たな手法が求められていました。
一方で、物理探査分野では、人工的な震源を用いず、交通や自然現象など地表面に存在する人がほとんど感じないレベルの常時微動を複数の高感度地震計(微動計)で同時に記録・解析することで、より簡易に地下約数十mの地下構造を推定する微動アレイ探査の研究・活用が盛んに行われています。近年では、さまざまな研究機関において、微動計の代わりに光ファイバーセンサを活用した地盤特性観測手法が研究されています。このような状況の中、 高精度な光ファイバー振動センシング技術を有するNTTと、微動アレイ探査技術および地盤解析の知見をもつ産総研とで、道路陥没リスクの早期発見に向けたモニタリングシステムの実現に向けて、実証実験を実施することとなりました。
2. 技術のポイント
① 常時微動を利用した広範囲かつ高頻度な地盤モニタリング
街の地表には、交通や自然現象などによる常時微動が存在し、これを解析することで地盤特性を推定することができます。今回我々は、実際の市街地の地下管路に敷設された光ファイバーをセンサとして活用し、常時微動の測定と特性の解析を行いました(図1)。
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図1.DASを活用した地盤特性観測手法
NTTが開発した高精度分布音響センシング(DAS)技術※2と、産総研の有する微動アレイ探査技術※3を用い、実際の市街地における実証実験を通じて、両者がおおむね一致することを確認しました。光ファイバーセンシング(DAS)を用いた手法により、従来技術では数年に1回程度しか実施できなかった地中空洞の点検に対して、地中深さ約3~30mの広範囲を、おおむね1日に1回程度の高頻度で遠隔モニタリングが可能になります。本手法と従来の地中空洞調査技術の比較は、図2に示します。
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図2.地中空洞調査技術の比較
② 空洞形成時の地盤特性の変化をシミュレーション
常時微動の測定から得られた地盤特性の経時変化の特徴から空洞をモデル化したシミュレーションにより空洞形成の予兆を推定できる可能性を確認しました。
3. 実験の概要
本手法の有効性を確認するため、茨城県つくば市内と埼玉県草加市内において、実際の地下管路に敷設された通信光ファイバーケーブルのルート上の複数地点において、光ファイバーを用いたDASと微動アレイ探査を用いて常時微動に含まれる振動を評価・比較する実証実験(図3)を実施しました。
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図3.実証実験の概要
結果の一例を図4に示します。図4は、つくばエリアと草加エリアの実験サイトの常時微動に含まれる振動について、各周波数の波が地盤を伝搬する速度(位相速度)を解析した結果を示しています。なお、DASによる結果は約1日分、微動アレイ探査による結果は約20分間の振動データをもとに解析した結果を示しています。約3 Hz~約20Hz以下の範囲において、おおむね整合的な結果が得られました。周波数とその振動に影響を与える地盤の深さは相関があり、たとえば低い周波数ほどより深い地盤の情報を持っていることが知られています。今回、整合的な結果が得られた範囲の位相速度の大きさから深さに換算すると、おおむね約3m~30mの深さの地盤特性が得られていることになります。これは、既に設置されている通信光ファイバーを用いることで、現地で作業が必要な微動アレイ探査とほぼ同等の精度で、広範囲かつ高頻度にDASによる地盤モニタリングが可能であることを示しています。
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図4.地盤特性の測定結果の例
図5は、地中空洞が形成された場合の地盤特性の変化をシミュレーションした結果の一例を示しています。ここでは、空洞の情報として、地盤の一定体積に占める空洞の割合を用いてシミュレーションしています。この図のように、仮に地中空洞が形成されると、空洞における振動が伝搬する速度の低下により、曲線に違いが出ることが分かります。本手法による高頻度のモニタリングにより、このような地盤特性の変化を経時的に観測して検知することで、空洞化の予兆の推定ができることが期待できます。
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図5.地盤に空洞が形成された場合の地盤特性の変化
4. 各社の役割
NTT:光ファイバーを用いた高精度DASの開発および測定・解析
産総研:微動アレイ探査による測定・解析、地盤特性のシミュレーション
5. 今後の展開
今後は、2026年度中にNTTグループ会社を通じて、自治体や上下水道事業者と連携し、実際の都市環境での実証実験を推進します。また、解析アルゴリズムの高度化や検知システムの開発を進め、全国のインフラ監視や防災システムへの適用をめざします。
本手法は約3m~30mの比較的深い地盤のモニタリングを対象としているのに対して、NTTではより広い範囲を一度にセンシングできる衛星を用いた地盤表層付近の空洞検知手法の研究開発も進めています。これら技術の活用により、陥没事故の予防や維持管理コストの削減に加え、都市の安全性向上と持続可能な社会インフラの実現に貢献します。
【用語解説】
※1. NTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap」公式サイト https://www.rd.ntt/forum/2025/
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※2.高精度DAS(Distributed Acoustic Sensing)
DASは、光ファイバーに入射した光の後方散乱光(レイリー散乱)を観測し、その位相やスペクトルの変化から光ファイバーに沿った振動(音響)の分布を高密度に計測する技術。NTTでは、独自技術による干渉雑音を抑制した高精度DASを開発しており、今回の実証実験に使用。
https://www.rd.ntt/iown_tech/post_8.html
※3.微動アレイ探査技術
地表面にアレイ配置した複数の微動計で常時微動の上下動成分を同時に記録・解析することで、簡易に地下深部まで物性値の構造を推定する探査技術。今回の実証実験では、広帯域な位相速度を比較するため、複数のアレイ形状を組み合わせた結果を使用。
https://doi.org/10.5575/geosoc.2023.0004