能登半島地震で震度5強を観測した新潟市西区では1月3日、液状化とみられる現象で噴き出た土砂を取り除くなど、住民たちが懸命の復旧作業を続けた。ただ住宅が傾いたり、地面が隆起したりするなど被害も明らかになり、不安の日々を過ごす人もいる。現場を歩き、被害の実情を聞いた。(報道部・奥村直之、樋口耕勇)
新潟市西区では44カ所で液状化が確認された。西区善久地域では、至る所であふれた土砂が積もったままになり、多くの住民がスコップやバケツを手に作業を続けていた。
善久で妻と暮らす会社員男性(34)が自宅の回りに噴き出た土砂の撤去に追われていた。家を建てたのは2023年9月。新年を迎えた1月1日の地震発生当時は、新潟市中央区の白山神社にいた。「おさい銭を投げたら揺れ、願い事をする間もなかった」。急いで自宅に帰ると、白色の外装で統一した自宅の周囲が泥水に覆われていた。「津波などの被害は想定したが、まさかこんなことになるとは想像できなかった」
土砂の撤去は2日から始めた。「水は引いたが、砂が吸ったのか本当に重い」と下を向く。一人で作業を続ける中、3日には兄(37)らが搬出に使うトラックに乗って駆けつけてくれた。「心強かった」が、トラックで土砂を2回搬出しても完全に取り切れず、終わりが見えないという。

2023年9月に新築した自宅前で、噴き出した砂を撤去する男性=1月3日、新潟市西区善久
新築の自宅もわずかに沈み、手作りしたウッドデッキは大きく傾いた。目の前のことで精いっぱいで「どうすればいいのかは分からない。でも、まだまだこの家に住みたいから」と懸命に作業を続けた。
男性宅の向かいの住宅では、駐車場に大量の土砂がたまっていた。陥没した所に車がはまり、隙間に大量の土砂が入り込んだ。家に住む60代女性は「ただ止めていただけなのに」と愕然とした。

土砂に埋まった車を引き上げる作業=1月3日、新潟市西区善久
加入する保険のロードサービスが到着すると、作業車が車をつり上げて救出。女性は「やっと買い物に行ける。土砂が多過ぎて、地面がどうなっているかは分からないのは不安のままだ」と話していた。
西区の寺尾地域でも、液状化とみられる被害は深刻だ。住宅の駐車場や道路に亀裂が走り、住宅の塀や車庫が崩壊していた。

敷地に割れ目ができ、ブロック塀が壊れるなどした50代女性の自宅=1月3日、新潟市西区寺尾朝日通
寺尾朝日通の50代女性は自宅のブロック塀が壊れ、外にある階段と玄関や壁の間に大きな段差ができていた。玄関のドアやふすまが開かず、床が傾いた。自宅で90代の母を介護している。女性は「この家に住めるのか分からない。どうしたらいいものか」と嘆いた。

敷地が隆起し、車庫が倒壊した住宅=1月3日、新潟市西区小針南
ビジネス客が利用する「ホテル寺尾」も施設内の壁にひびが入り、閉まらないドアがある。水道管が壊れて一時水も止まった。営業開始となる1月4日を前に応急処置し、何とか再開のめどが立った。ただ傾きやゆがみは直せず、ホテルの社長(65)は「中越地震や東日本大震災もあったが、ここまでの被害は初めて。最悪建て直しが必要かもしれない」と不安そうだった。

水道の配管などが壊れたホテル寺尾。建物前の道路はひび割れていた=1月3日、新潟市西区寺尾朝日通
小針南の自営業(58)は倒壊した自宅の車庫の後始末に追われていた。倒れた車庫が道をふさぎ、近隣住民の協力で1月2日までに敷地内に片付けたが、撤去はこれから。業者がいつ来られるかは分からない。自宅内も損壊した。「復旧は長期化するだろう。補助は受けられるのだろうか。物価がこれだけ高騰している中、きつい年始になった」とため息をついていた。